リムナンテスは愉快な気分

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楔形文字で学ばないアッカド語文法(1)発音

注:勉強中の筆者のメモです。間違いあったらコメントまで。

この記事は

についての記事です。


楔形文字で学ばないアッカド語文法」では、初級段階において楔形文字に一切触れずにアッカド語に入門していきます。

アッカド語といえば楔形文字みたいなところがありますが、日本語の漢字並のめんどくささがあるので結構難しいです。言うなれば万葉仮名です。さらに、綴り方に一癖二癖あり、同じ単語に対して幾つも綴りがある、なんてケースもあります。これは、漢字が元々中国語を表す文字であるように、楔形文字が元々シュメール語を表す文字であったためです。ですので、学習の入口ではラテン文字表記に慣れていきます。

1. 発音

最初は発音から。めんどくさいところですが、耐えましょう。

母音

最初に母音から。
アッカド語の母音は a, i, u, e (ア、イ、ウ、エ)の4つ。オは無いとされています。

短母音
文字 発音 対応
a /a/
i /i/
u /u/
e /e/

発音の仕方は殆ど日本語と同じようにしても差し支えないと思われる。i, u は日本語よりはっきり発音した方がいいとは思いますが。


アッカド語は日本語と同様に短母音と長母音の区別があります。

長母音
文字 発音 対応
ā, â /aː/ アー
ī, î /iː/ イー
ū, û /uː/ ウー
ē, ê /eː/ エー

ā, â の2種類の表記がありますが、歴史的な音韻変化の経緯によるものです。
記号の違いによって発音は変わらず、どちらも同じ長さです。
この違いは結果としてアクセントの位置に影響します(後述)。

子音

続いて子音。

文字 発音 対応
b /b/ バ行
p /p/ パ行
d /d/ ダ行
t /t/ タ行
/tʼ/ タ'行(放出音)
g /g/ ガ行
k /k/ カ行
q /kʼ/ カ'行(放出音)
z /d͡z/ ヅァ行
s /t͡s/ ツァ行
/t͡sʼ/ ツァ'行(放出音)
š /s - ʃ/ シャ行
r /ɣ - ʁ/ ギャ行(有声軟口蓋摩擦音)
/x/ ハ行(無声軟口蓋摩擦音)
l /l/ ラ行
j, y /j/ ヤ行
w /w/ ワ行
ʾ /ʔ/ ッア行(声門摩擦音)


z, s は破擦音です。それぞれ/d͡z/, /t͡s/。
rは/r/ではないので注意。rとḫが無声音と有声音の対立です。

アッカド語で一番特徴的な発音は放出音(ṭ, q, ṣ)でしょうか。
発音の詳細はwikipedia:放出音を見てください。

ʾ /ʔ/ は通常その表記が省略されます。アッカド語の音節がCV, CVCしか許容されていないので、母音で始まる音節(V, VC)は実質ʾが頭に挿入(ʾV, ʾVC)されていると考えます。日本語話者的には気にしなくても問題ないです。

ちなみにMacOSであれば、ABC-Extended(または Unicode 16進数入力)でキーボード入力できます。ṭ/ṣ は option+x → t/s、šは option+v → s、ḫ は ABC-extended で入力できないため Unicode 16進数入力で h → option+032e の順に打ち込むと入力できます。

2. 音節

早速アクセントの話に入りたい…ところですが、その前にアッカド語の音節について。
というのも、アッカド語のアクセントは音節の種類によって決まるので、音節の知識を学ぶことは非常に大切です。


アッカド語の音節は、音節内の母音によって

  • 軽音節
  • 重音節
  • 超重音節

の3種類に分けることができます。

軽音節

短母音(a, i, u, e)で終わる開音節。
例:-a, -ba

重音節

マクロンの長母音(ā, ī, ū, ē)で終わる開音節。
例:-ā, -bā

または、短母音(a, i, u, e)の閉音節。
例:-ak, -bak

超重音節

サーカムフレックスの長母音(â, î, û, ê)が含まれる音節。
例:-â, -bâ, -âk, -bâk

または、マクロン長母音(ā, ī, ū, ē)の閉音節。
例:-āk, -bāk


3. アクセント

アッカド語は強弱アクセントです。


(a) 最終音節が超重音節なら、そこにアクセント

ibnû:ib /
idūk:i / dūk

最終音節の nû, dūk が超重音節なので、ここにアクセントが置かれます。


(b) そうでなければ、後ろから2番目の超重音節、重音節にアクセント

tēteneppušā:tē / te / nep / pu / šā
itâršum:i / târ / šum

šā は超重音節ではないので、後ろから数えて2番目にある重音節の nep にアクセントが置かれます(pu は軽音節なので数えない)。
itâršum の方も後ろから数えて2番目の超重音節 târ にアクセント。


(c) 最終音節以外の音節が短母音しか含まない場合、第1音節にアクセント

zikarum:zi / ka / rum
ilū:i / lū
šunu:šu / nu

zi も ka も軽音節なので、第1音節の zi にアクセント。



→次:
楔形文字で学ばないアッカド語文法(2)名詞の格変化 - リムナンテスは愉快な気分


参考文献
  • Huehnergard, J. A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011). Harvard Semitic Museum Studies 45. ISBN 978-1-57506-922-7