リムナンテスは愉快な気分

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楔形文字で学ばないアッカド語文法(5)語根

アッカド語はお久しぶりです。別のことをいろいろやっていたらアッカド語をやる時間がなくなりました。多分次回記事執筆までまた期間が開きます。いつになったら完結するのか…



さて、この記事は

についての記事です。

1. 語根

アッカド語アフロ・アジア語族セム語派というグループに属します。このセム語系言語では、大体の単語が語根子音列の間に母音を挟むこと+接辞で作られます。

語根:k-ṣ-r

アッカド語 日本語
kaṣārum 縛ること
kuṣur 縛れ
kuṣṣurum 縛られた(もの)
makṣarum

語根は大体子音3つですが、3つとは限らない。

アッカド語は9割くらい動詞っぽいので、この先殆ど動詞の話が続く…

2. G語幹

セム語では子音からなる「語根」、間に母音を挟みこむことでできる「語幹」が特徴的です。そしてこの母音の挟み込み方によって様々な機能を持った語幹が生まれます。

メインはG語幹、D語幹、Š語幹、N語幹の4系統。それぞれに、受け身、相互動作を表すt語幹(Gt、Dt、Št、Nt)、反復動作を表すtn語幹(Gtn、Dtn、Štn、Ntn)への派生とŠD語幹がある。

状態動詞3人称単数の場合。簡単のため、語幹子音はそれぞれ1,2,3で表記。

語幹 形態 備考
G語幹 1a2ā3 (基本的なもの、独: Grundstamm)
D語幹 1u22u3 (性質、独: Doppelungsstamm)
Š語幹 šu12u3 (使役)
N語幹 na12u3 再帰・受動)
Gt語幹 1it2u3 (Gの受動)
Dt語幹 1uta22u3 (Dの受動)
Št語幹 šuta12u3 (Šの受動)
Nt語幹 ita12u3 再帰的受動)
Gtn語幹 1ita22u3
Dtn語幹 1uta22u3
Štn語幹 šuta12u3
Ntn語幹 ita12u3
ŠD語幹 šu1u22u3


G語幹は1a2ā3(これは不定形)、と表されます。

これらの語幹は不定形であり、各語幹に関して過去形、完了形、継続相、否定願望、疑問形、要求、準動詞、叙述用法に活用します。なので、例えばG語幹の過去形とD語幹の過去形で異なる母音が突っ込まれることがあります。
活用表は結構膨大な量になると思われます。(活用だと思うとそうなのですが結局のところ単語の派生が文法的と言えそう。)

アッカド語は殆ど動詞といっても過言ではなく、動詞のシステムを理解することがアッカド語の理解に繋がります。
なのでこれ以降はほぼ動詞の話


3. G不定

いわゆる辞書形。辞書の見出しは単数主格1a2ā3umらしい。これ自体が名詞なので、名詞型の活用をします。

  • šakānum 「置く(こと)」
  • maḫārum 「受け取る(こと)」
  • šaraqum 「盗む(こと)」

この手の単語は語尾-umをšakānum、šakānim、šakānam、...のように変化させることができます。


不定詞が前置詞の後ろに置かれる時、少し意味合いが変わります。
anaは「〜の方へ」、inaは「〜の中へ、〜という場所から」という意味の前置詞でしたが、ana+不定詞で「〜のために」、ina+不定詞で「〜のとき」という意味を表すことができます。前置詞に続くので当然不定詞は属格を使います。

wardum ina šaraqim ša ḫurāṣim imqut
「奴隷は金を盗むとき落ちた」
šarrum ana ālim ana šakānim ša ilim ikšud
「王は神を据えるために街に到来した」

あとのlessonで詳しく解説しますがアッカド語の基本語順はSOVです。
前置詞句中で不定詞の目的語はšaで表します(多分)。

4. 動詞の意味論

余談的な話ではありますが、だいたいの動詞は意味論的に次の3種類に分類することができます。
(1) 動作他動詞
(2) 動作自動詞
(3) 状態動詞

(1) 動作他動詞

直接目的語を取り、動作を表す動詞

  • šakānum 「置く」
  • maḫāṣum 「打つ」
  • šaraqum 「盗む」
  • ṭarādum 「送る」

(2) 動作自動詞

直接目的語を取らず、動作を表す動詞

  • naḫāsum 「後退する」
  • maqātum 「落ちる」

(3) 状態動詞

「〜であること」、「〜になること」というような、状態を表す動詞

  • damāqum 「良い」
  • rapāšum 「広い」
  • marāṣum 「病気である」


単語によっては2種類以上にまたがることがあり、同じ形の動詞でも意味合いが少し変わることがあります。
例えば、動詞kašadumは(1) 動作他動詞の意味では「届く」、(2) 動作自動詞の意味では「着く」というように使うことができます。


5. まとめ

  • アッカド語は動詞が大事
  • 語根子音の間に母音を挿入すると語幹ができる
  • 語根1-2-3に対して1a2ā3umでG不定詞を作ることができる
  • 動詞には意味論的に(1) 動作他動詞、(2) 動作自動詞、(3) 状態動詞の3種類がある。


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参考文献
  • J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
  • D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.