形容詞は動詞から生成されます(動形容詞)、というお話。
文法的には分詞?にあたると思われます。
この記事は
- 母音脱落
- G動形容詞(受動・完結・記述)
についての記事です。
1. 母音脱落
形容詞の前に、アッカド語の母音脱落について。
アッカド語では、ある条件において母音が脱落します。その条件となるのは「軽音節が連続するかどうか」です。アッカド語には軽音節、重音節、超重音節がありますが、よくわからん!という方は以下の第1課で詳しく説明していますので参照してください。
さて、アッカド語では軽音節(短母音で終わる音節)が2つ以上続くことは原則許されていません。そのため、軽音節が連続するとき、後ろの軽音節の母音が脱落します。
ma-pi-と軽音節が連続しているため、*mapišatumという語形はアッカド語では許されない。そのため、2番目の母音=iが脱落し、mapšātumという語形になる、ということです。
ただし、例外的に母音脱落しない場合も(結構)あります。
2. G動形容詞
アッカド語の形容詞はほとんど動形容詞です。動形容詞でない形容詞もたまにあるようですが。
語形
まずは語形から。G動形容詞の語幹は1a2V3-という形をとります。p-r-sで記述する場合はparVs形です。2個目の母音V(この母音のことを幹母音といったりします)は短母音で、殆どの場合でiですが稀にaやuもあります。
damiq- 良い < damāqum 良くなること
rapaš- 広い < rapāšum 広くなること
zapur- 悪い < zapārum 悪くなること
名詞と同様、動形容詞は上記の語幹に語尾がつきます。この語尾は性、数、格によって変化します。ただし、前述の母音脱落ルールによって、女性単数以外では2番目の母音が脱落します。女性単数語尾は-tumと子音で始まるため、語幹 1a2V3-とくっ付くと1a2V3tumという形になります。したがって、2V3が重音節となるので女性単数のみ幹母音 V が脱落しません。
こちらはG動形容詞の活用表。 語根子音を 1、2、3、幹母音を V と表記した場合の一般形、damqum (masc.) / damiqtum (fem.)「良い」、rapsum (masc.) / rapastum (fem.)「広い」、zaprum (masc.) / zapurtum (fem.)「悪い」。
1a2V3- (一般形) |
damiq- (良い) |
rapas- (広い) |
zapur- (悪い) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | ||
単数 | 主格 | 1a23um | 1a2V3tum | damqum | damiqtum | rapsum | rapastum | zaprum | zapurtum |
属格 | 1a23im | 1a2V3tim | damqim | damiqtim | rapsim | rapastim | zaprim | zapurtim | |
対格 | 1a23am | 1a2V3tam | damqam | damiqtam | rapsam | rapastam | zapram | zapurtam | |
複数 | 主格 | 1a23ūtum | 1a23ātum | damqūtum | damqātum | rapsūtum | rapsātum | zaprūtum | zaprātum |
斜角 | 1a23ūtim | 1a23ātum | damqūtim | damqātim | rapsūtim | rapsātim | zaprūtim | zaprātim |
名詞とは違って双数形はありません。双数名詞を修飾するときは複数形を使います。
ちなみに、G過去形の幹母音とG動形容詞の幹母音に特に関連はないです。
例えば、idmiq(G過去形;良くなった)とdamiq-(G動形容詞;良い)はどちらも幹母音がiですが、imraṣ(病気になった)とmaruṣ-(病気の)、irpiš(広がった)とrapaš-(広い)といった語では、G過去形とG動形容詞で幹母音が異なります。
(G過去形については前回の記事で詳しく解説しています。)
limnanthaceae.hatenablog.com
さらにもう一つ注意点。2、3番目の語根子音が同一であった場合(pasas型)、動形容詞の語幹は pass- 型をとります。例えば danānum(強くなる)は2番目と3番目の子音が共に n ですので、danānum > dannum, dannatum のように、女性単数も語幹が dann- となって幹母音が現れません。
意味
G動形容詞は後置修飾で、行為による状況、状態を記述します。大まかな意味は元の動詞(語根)の意味論的性質から決定されます。どういうことかというと、アッカド語の動詞は
(1) 動作他動詞
(2) 動作自動詞
(3) 状態動詞
に分類できるのですが、これらがG動形容詞化すると
(1) 動作他動詞→受動
(2) 動作自動詞→結果
(3) 状態動詞→記述
の意味に化けます。
(1) 動作他動詞→受動
直接目的語を取り、動作を表す動詞は、受動を表す動形容詞になります。
- kaspum šaknum 「置かれた銀」
- šīpātum šarqātum 「盗まれた羊毛」
(2) 動作自動詞→結果
直接目的語を取らず、動作を表す動詞は、動作後の結果を表す動形容詞になります。
- ṣābum naḫsum 「後退した軍隊」
- bītātum maqtātum 「崩れ落ちた家々」
(3) 状態動詞→記述
「〜であること」、「〜になること」というような、状態を表す動詞は、物事の性質を記述する動形容詞になります。
- mārātum damqātum 「良い娘たち」
- nārum rapaštum 「広い川」
- īnān marṣātum 「病気の目」
3. まとめ
- 一部の単語を除き、軽音節が2つ連続することは許されないので、このとき2音節目の母音は脱落する
- 動形容詞は後置修飾
- 動作他動詞が動形容詞になると受動の意味
- 動作自動詞が動形容詞になると結果の意味
- 状態動詞が動形容詞になると性質記述の意味
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参考文献
- J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
- D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.