リムナンテスは愉快な気分

徒然なるままに、言語、数学、音楽、プログラミング、時々人生についての記事を書きます

三角関数不要論者に三角関数を教えるのは時間の無駄

巷で話題の三角関数

三角関数が役に立つことは言うまでもなく、
例えば以下の記事にあるように、測量、回転、波動を理解したり計算したりと広範囲に応用できます。

qiita.com

これを教えて「そういうことだったのか!」となる人は見込みある。
「使わない」だの「私には関係ない」だの言うやつは見込みがない。教える側のリソースが無駄なので諦めた方がいい。

数学ではなく何を教えるべきか

日本語を教えましょう。

日本語読めないやつが多すぎる。
アホは自分が知っている単語を拾い集めて、単語から文意を勝手に類推、もとい捏造します。
いやそんなこと言っとらんがな、って場面が多すぎる。文字が読めると文が読めるは違う。

何なら早期英語教育とかも要らない。日本語を教えておいてほしい。

ぼくのかんがえたさいきょうの数学カリキュラム

さて、理系なら当然全部やるべきなので、というか全部必要なので置いておいて、数学の価値を一生理解できないような自分のことを文系だと思い込んでいる文系モドキに何を教えるか(何を教えないか)考えます。

まあ確かに三角関数は日常生活で使わないので(日常生活に使うものを作るためには使いますが、別に電磁気学知らなくても電子レンジは使えるので)、じゃあ数学で何を教えるべきかということを考えてみます。

三角関数程度も理解できないアホが金融を理解できるとは到底思えませんが、とりあえずこれらを目標にしましょう。

1. 統計学の基礎

確実に日常生活で触れる内容ではないでしょうか。
平均値、中央値、最頻値の違いや尺度水準をきちんと理解し、データを読み解くリテラシーを醸成したほうがよいのではないでしょうか。
また、平均、分散、標準偏差、そして自然界の基本である正規分布は最低限理解していただきたい。これらの知識が欠如しているために不可解なレッテル張りによる尊厳の侵害、クソみたいな判断など、見るに堪えない場面があまりにも多い。

2. 金融リテラシーの基礎

例の人の希望でもあるので、これも入れました。
実際、税金やら資産形成やら保険やらで金利複利計算みたいなことを考えたりしますので。

結局何が分かっていればよいか。どちらかというと金融工学になりそうですが、

  • 単利、複利
  • 線形計画

...あまりない気がしてきましたが、まあいいでしょう。

現行のカリキュラムでいうと...

さて現行の数学カリキュラムで何を教えることになっているかですが、教育指導要領によると、

数1

  • 数と式
  • 図形と計量(三角比)
  • 二次関数
  • データの分析(分散・標準偏差・相関)

数A

  • 図形の性質(初等幾何)
  • 場合の数と確率
  • 数学と人間の活動(整数論

数2

数B

  • 数列
  • 統計的な推測(分布・標本調査)
  • 数学と社会生活(?)

数3

数C

  • ベクトル
  • 平面上の曲線と複素数平面
  • 数学的な表現の工夫(?)

ということになっています。統計学的な感覚だけでも身に着けておいてくれればいいやと思うならば、以下の赤字をやれば十分ではなかろうか。

数1

  • 数と式
  • 図形と計量(三角比)
  • 二次関数
  • データの分析(分散・標準偏差・相関)

数A

  • 図形の性質(初等幾何)
  • 場合の数と確率
  • 数学と人間の活動(整数論

数2

数B

  • 数列
  • 統計的な推測(分布・標本調査)
  • 数学と社会生活(?)

数3

数C

  • ベクトル
  • 平面上の曲線と複素数平面
  • 数学的な表現の工夫(?)


統計的な話として、

  • 場合の数と確率
  • データの分析(分散・標準偏差・相関)
  • 統計的な推測(分布・標本調査)

の順に理解するのが多分よろしくて、統計的な話を理解するための数学として、

  • 数と式
  • 二次関数
  • 指数関数・対数関数
  • 図形と方程式(代数幾何

を教えるのがよさそう。代数幾何は場合によっては要らないかもしれないけれども。

これらを(将来三角関数を使う)見込みのない人に最低限の知識として教え、残りの人には並行して

  • 図形の性質(初等幾何)
  • 数学と人間の活動(整数論
  • 数列

を教えればよいのではないでしょうか。

…という戯言でした。

2022年版 キリバス語の学び方(文法、教材、文章集)

キリバス語学習の決定版。

日本語文献は(殆ど)ありません。

1  概要を知る

まずは、wikipediaキリバス語の記事を読んで概要をざっくり把握する。
(9割くらい私が書いたので)所々誤りがありそうですが「ふーんそうなんだ」くらいの気持ちで雰囲気だけつかんでください。

他の言語もちょろちょろ見たけど大差なかった。それどころか日本語版が一番充実しているかもしれない(私が書いたので)。

2 文法を学ぶ

1985年発行。キリバス語がマイナーすぎて約40年前の文法書が最新という衝撃の事実。
音韻論、正書法、形態論、品詞、統語論と網羅的に説明されています。

1979年発行。全40課。もしかしたら教材としてはこっちのほうが取り組みやすいかも。
trussel.com 自体は文法書、会話・文化を学べる教材(なぜかこっちだけpdfがある)、英吉・吉英辞典がそろっている。
所々説明が怪しいのだけど、今の所それなりにまとまっている文法書がこいつくらいしかないので、仕方がない。

3 辞書を使う

2つとも trussel.com から。データベースではないので検索は Ctrl+F または command+F でどうぞ。

余談ですが、6年前くらいに神保町で紙の「キリバス語―日本語辞典」を2000円で売ってるところを見たことがあるんですけど、ネットで探しても見つからないんですよねこの辞書。
(当時購入しなかったことを激しく後悔している。どこの店かももう覚えてないし…)

4 キリバス語会話を学ぶ

全61課。trussel のこれしかない。詳しい説明があんまりないので先に文法を学習してしまうのがよいかもしれない。
文法が嫌いな人はここからでもいいけど、そこら辺の英語本みたいなのを期待しないほうがいい。
もしかしたらページが飛んでいるかもしれない。Kiribati から各課ごとのpdfに飛べる。

5 動画で学ぶ

例の流行り病のため、2020年代キリバス語音声が聴けるようになった。

Ministry for Pacific Peoplesというニュージーランド?の機関が制作している(と思う)。

字幕入り。

6 キリバス語版聖書で学ぶ

音声つき聖書キリバス語訳。

文法をあらかた学習したのちに、多言語界隈のパラレルコーパスとして名高い聖書で読解練習をするのが良さそう。というかまとまった文章がこれくらいしかない。
上のリンク先は創世記だが、旧約、新約からいろいろ選べる。マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネパウロ書簡、公同書簡など。

10分でわかるイスクイル統語論入門

※こちらの記事はイスクイル4(TNIL)の統語論の説明です。

イスクイルの統語論のルールはA4 1枚で収まるたったの9項目しかないのでとっても簡単!*1

用語の簡易解説

  • 形成詞:単語のカテゴリの一つで、集合として名詞とか動詞とか叙述形容詞を包含する
  • 参照詞:ほぼ代名詞のことだと思っても差し支えない
  • 付属詞:形成詞・参照詞以外
  • 項:言語学用語、動詞を使うときに一緒に置かれる名詞みたいな意味

1分でわかるイスクイル統語論

  1. 主節:動詞が1番目に来る
  2. 従属節:動詞が1番目に来る
  3. 動詞に続く項:動詞の近くに1〜9格を置くことが好まれるが必須ではない
  4. 同格の形成詞:被修飾語-修飾語の語順だが、意味が曖昧にならなければ修飾語-被修飾語でもよい
  5. 参照詞:(いわゆる代名詞は)動詞の次に置くか、関連する他の単語に続けて置かれる
  6. Modular, Affixual 付属詞:Modular, Affixual 付属詞は形成詞に先行する
  7. Register, Carrier, Quotative, Naming, Phrasal 付属詞:単語・句の開始や終了に対して置かれる
  8. 文と文の接続:主動詞形成詞・語頭マーカー付き形成詞が文頭
  9. バイアス付属詞:(いわゆる感嘆詞)発音する際は後ろに間を空ける

9分でわかるイスクイル統語論の詳細

1. 主節(つまりUNFRAMEDな動詞形成詞を含む節)

1. Main Clauses (i.e., containing an UNFRAMED verbal formative): Default order is verb-initial. A formative with semantic focus is placed immediately preceding the main verb, while a semantic topic is placed in sentence-initial position.

「デフォルトの語順では動詞が先頭に置かれる。意味論的焦点が当てられている形成詞は本動詞の直前に置かれると同時に、意味論的題目は文頭に置かれる。」

VSO語順だと思ってください。なんか強調したい時は名詞が語頭に出ます。

2. 従属節

2. Subordinate clauses (i.e., case-framed) are mandatorily verb-initial. Formatives with semantic focus or topicalization must utilize the TPF affix.

「従属節(つまりcase-framed)は、強制的に動詞が先頭になる。形成詞に意味論的な焦点や話題性がある場合は、必ずTPF接辞を用いる。」

3. 動詞に続く項

3. Arguments to a Verb: While the author tends to favor higher-order transrelative arguments to be closer to the main verb, such ordering is not mandatory and any ordering of arguments to a verb is acceptable as long as their case-marking causes no ambiguity.

「著者はtransrelative格類(1〜9格)の項を本動詞の近くに置くことを好む傾向があるが、そのような順序は必須ではなく、格標示が曖昧さを生じない限り、項の順序はどのようなものでもよい。」

4. 同格の形成詞

4. Formatives in Apposition: formatives modifying another formative (e.g., marked in one of the Appositive or Relational Cases) must be immediately juxtaposed unless a Case-Scoping affix makes their relationship clear. Default apposition order is that the modifying formative follows the formative being modified. However, this default order is only mandatory if the relationships between a series of successive formatives would otherwise be ambiguous. If not, then the two formatives may be in either order: modified-modifier or modifier-modified.

「他の形成詞を修飾する形成詞(例えばappositive格類(10〜18格)またはrelational格類(37〜44格)のいずれかでマークされる)は、Case-Scoping接辞によってその関係が明確にされないのであれば、直ちに並置されなければならない。デフォルトの同格の順序は、修飾される形成詞に修飾する形成詞が続くことである。しかしながらこのデフォルトの順序は、そうしなければ一連の連続した形成詞の間の関係が曖昧になる場合にのみ必須である。そうでない場合は、並置された2つの形成詞は、被修飾語-修飾語、修飾語-被修飾語のどちらの順序でもよい。」

5. 参照詞(代名詞)

5. Referentials: Referentials follow the main verb to which they are arguments; however, if the Referential is topicalized or has semantic focus, then it may precede the main verb as per the first rule above. If associated with formatives other than the main verb, the Referential normally follows the formative or other Referential with which it is associated; however, if case-marking makes clear the association between the Referential and the formative (or other adjunct), then the Referential may precede its associated formative or adjunct.

「参照詞は項として主動詞に続けて置かれるが、参照詞が題目化されていたり、意味論的焦点が当てられている場合は、上記の規則1に従って主動詞に先行することがある。主動詞以外の形成詞に関連する場合、参照詞は通常、関連する形成詞または他の参照詞に続く。しかし、格標示によって参照詞と形成詞(または他の付属詞)との関連が明確な場合、参照詞は関連する形成詞または付属詞に先行させることができる。」

6. Modular, Affixual 付属詞

6. Modular and Affixual Adjuncts: A modular adjunct normally immediately precedes a formative and is considered semantically part of it. An affixual adjunct likewise precedes its formative (or that formative’s modular adjunct). For formatives otherwise in sentence-final position, a modular adjunct or an affixual adjunct can be placed after the formative in sentence-final position.

「modular adjunctは通常、形成詞の直前に置かれ、意味論的にその形成詞の一部とみなされる。affixual adjunctも同様に、形成詞(または、その形成詞のmodular adjunct)の前に置かれる。文末にある形成詞に関しては、その文末にある形成詞の後に、modular adjunctやaffixual adjunctを置くことができる。」

7. Register, Carrier, Quotative, Naming, Phrasal 付属詞

7. Register, Carrier, Quotative, Naming, and Phrasal Adjuncts: Given that these adjuncts signal the beginning (and/or ending) of various specialized types of words/phrases, their position in a sentence is obviously determined by the beginning (or ending) of the word/phrase in question.

「これらの付属詞は、様々な特殊なタイプの単語・句の始まりや終わりを示すことから、文中での位置は件の単語・句の始まりや終わりによって明確に定まる。」

8. 文と文の接続

8. Juncture between sentences: The ultimate stress on a non-monosyllabic main verbal formative in sentence-initial position (including concatenated verbal formatives but NOT including any preceding adjuncts) shall be sufficient to indicate the beginning of a new sentence. Additionally, any sentence at the beginning of a breath group (i.e., an initial utterance or an utterance preceded by a pause for breath) shall require no further indication that a new sentence has begun. Otherwise, the first word of a new sentence shall take a word-initial prefix ç(ë)- to indicate the beginning of a new sentence. The form of the prefix before vowels is ç- (replacing the initial glottal-stop), while the form before consonants besides w- and y- is çë-. For words with initial w-, the ç- plus w- become çw-; for ç- plus y-, these combine to become çç-. All formatives and adjuncts have now been redesigned/modified where necessary to accommodate this without creating any ambiguities. When used before consonants besides w- and y-, the word-initial çë- prefix never takes syllabic stress (if necessary, add additional default syllables via Slots VIII and/or IX instead or by avoiding the use of a CA shortcut).

「文頭の単音節でない主動詞形成詞(連結された動詞形成詞を含むが、先行する付属詞は含まない)の最終音節にストレスアクセントがあれば、新しい文の開始を示すのに十分であるものとする。さらに、呼吸群(すなわち、最初の発話または呼吸のための休止が先行する発話)の先頭にある文は、新しい文が開始されたことをさらに示す必要はないものとする。それ以外の場合、新しい文の最初の単語は、新しい文の開始を示すために、語頭接頭辞ç(ë)-を取るものとする。母音の前の接頭辞の形はç-(最初の声門停止を置き換える)であり、w-とy-以外の子音の前の形はçë-である。頭文字がw-の単語では、ç-とw-が組み合わさってçw-となる。ç-とy-が組み合わさる場合はçç-となる。すべての形成詞および付属詞は、曖昧さを生じさせることなくこれに対応できるよう、必要に応じて再設計・修正された。w- と y- 以外の子音の前で使用する場合、単語の頭文字である çë- 接頭辞は音節のストレスが置かれない (必要に応じて、スロット VIII および IX でデフォルトの音節を追加するか、CA ショートカットを使用しないようにする)。」

9. バイアス付属詞

9. Bias Adjuncts: A Bias Adjunct should be pronounced with both a preceding and following pause, just as in English we tend to pause for breath before uttering a supra-segmental expression, e.g., ‘Phew!...’, ‘Ugh!...’, ‘Hmm...’, etc., and pause afterward.

「バイアス付属詞は、その前後で間をおいて発音しなければならない。これは丁度英語で「Phew!...」「Ugh!...」「Hmm...」といった、超分節的な表現を口にする前後に一呼吸置くようなものである。」

*1:個人の感想です

イスクイル辞書の引き方入門【イスクイル III・イスクイル IV】

この記事は語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2021の19日目です。
adventar.org


これであなたもイスクイル単語が作れる!(果たして本当にそうだろうか?)

はじめに

イスクイル、多くの人がその難解な文法書に挑んでは意味不明な概念と理解不能な英文の前に散っていった。
ある程度適当な単語を用意しておけば適当に文法を理解できそうな気もするが、文法をやらないことには辞書を見ても何もわからないという、もうどうしようもない状態なんですね。

せめて人類がイスクイルの単語を参照できるようにしたいと、そういう思いでこの記事を執筆しています(これでイスクイル学習者増えてくれお願いだから)。

イスクイル単語の構造

そもそも公式にはイスクイル単語の辞書は存在しません。あるのはイスクイルの語根リストだけです。

イスクイルでは膨大な種類の活用を組み合わせて意味を表現しますので、語根を機械的に派生させて任意の単語を作れる、もといイスクイル話者自身が作れ、と、そういうことらしいですね。

ちなみにイスクイル IIIでは追加分含めて約1000語根、イスクイル IVでは約5900語根が語根リストに掲載されています。
イスクイル単語を調べる(=作る)には、イスクイルの形態論を把握しておかねばならぬ。

参考:セム語の語根システム

さてじゃあイスクイルの単語の構造・音韻形態論はどうなっているんだ?の前に、セム語の語根システムについて紹介したいと思います。恐らくここから入るのがイスクイルの音韻形態論を理解する上でもっともわかりやすい道かと思われる。まあセム語の一般形として理解するか、抱合語として理解するかのどちらかですかね。筆者は抱合語のことがよくわからないので今回はセム語で。

ここではアフロ・アジア語族セム語派の言語のことを総称してセム語と呼びます。
イスクイルに興味を持ってしまう頭のおかしい皆さんなので既にご存知の方が多いかとは思いますが、セム語にはアラビア語、アムハラ語、ヘブライ語エラム語、フェニキア語、アッカド語といった中東地域の言語が属しています。
形態論的には語根が三子音からなる*1、という特徴があり、この三子音の間の母音を交替させたり、接尾辞や接頭辞を加えたり、子音を重ねたりすることで単語を複雑に派生させます。

筆者はアッカド語しかわからないのでアッカド語を例に。
語根三子音を1-2-3と表すとすると、不定*2は1a2ā3umで表されるといったような具合。

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d-n-n(強い)の不定形は danānum(強くなること)、ṣ-b-t(掴む)の不定形は ṣabātum(掴むこと)など。
子音の間に入る母音のパターンを変えることで、動詞過去形や形容詞など様々な意味を表現することができます。

イスクイル IIIの形態論

イスクイルでもセム語と同様、語根周辺の音を交替させて派生語を作ります。ただしセム語と違って語根子音が現れる場所は1箇所のみ、かつ子音連続する可能性があります。例えば、a-VII-alで名詞、i-VII-alで動詞、など*3。ここでI語根の子音クラスタをVIIで表しています。

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さてイスクイルでは格変化や母音交替する部分も語根子音とパラレルに扱われます。語根や格などの形態素が収まる部分のことをイスクイルではSlotと呼びます。イスクイル IIIでは全15 Slot存在します。

イスクイル IIIにおける最も単純な単語の構成=Slot構造は、Slot IV, VII, VIII, X, XIV, XVからなる単語です。

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各形態と役割は下の表の通り。

Slot IV VII VIII X XIV XV
形態 母音 子音 母音 子音 [声調]*4 [強勢]*5
だいたいの意味 辞書的派生
&品詞的な何か
語根 活用的派生 相的な何か 辞書的派生
&関係節か否か

例えば"aqal"という単語は形態的には"a-q-a-l-[falling]-[penultimate]"のように分解でき、各Slotとの対応は下表のようになります。

Slot IV VII VIII X XIV XV
形態 a q a l [falling] [penultimate]

で、各形態に応じた意味が割り当てられているという仕組みになっています。

辞書から単語を構成する際はこれら全てを把握する必要まではなく、最低限Slot IV (Pattern, Stem)Slot XV (Designation)を理解すれば問題ないです。これらは共に、語根に対して辞書的に定義されている詳細な意味を確定するために使われています。Slot IVでは母音を9通りに交替させることで、Slot XVでは強勢が最終音節か後ろから2番目の音節かで意味を細かくしています。

イスクイル IVの形態論

イスクイル IVでもSlot構造が基本的な考えとしてありますが、JQの気まぐれ作者の意向によりイスクイル IIIとは大きく異なる形態論が組み立てられています。イスクイル IV*6では全10 Slotです。

イスクイル IIIにおける最も単純な単語の構成=Slot構造は、Slot II, III, IV, VI, IX, Xからなる単語です*7

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各形態と役割は下の表の通り。

Slot II III IV VI IX X
形態 母音 子音 母音 子音 母音 [強勢]
だいたいの意味 辞書的派生
&相的な何か
語根 辞書的派生
&品詞的な何か
活用的派生 格 or
動詞のお気持ち
関係節か否か

例えば"alala"という単語は形態的には"a-l-a-l-a-[penultimate]"のように分解でき、各Slotとの対応は下表のようになります。

Slot II III IV VI IX X
形態 a l a l a [penultimate]

こちらは最低限Slot II (Stem)Slot IV (Specification)を理解すれば問題なし。共に、語根に対して辞書的に定義されている詳細な意味を確定するために使われ、母音階梯で弁別します。

辞書(語根集)の見方

唐突に「人間」という単語を作りたくなったと仮定します。

イスクイル IIIの場合

(わかる人向け:以下はSTA-UNI/CSL/M/DEL/NRM-OBL-PRC)

まずイスクイル IIIの語根集(http://www.ithkuil.net/lexicon.htm)を開きます。
世界は非英語母語話者に優しくないので仕方なく英語で"human"を検索(ctrl/command+F)します。
そうすると語根 -Q-(高等動物)という語根を見つけることができます。

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この表が何を表しているか。最も大事なことは、「1つの語根に対して18通りの派生単語を作ることができる」ということ。

辞書的な意味の弁別に必要な項目はSlot IV (Pattern, Stem)Slot XV (Designation)
まず大きく左9個と右9個に分かれます。これはSlot XV (Designation)に関わる部分で、左半分がInformal Designation、右半分がFormal Designation。公式(ithkuil.net)の3.7節には何かごちゃごちゃ書いてありますが、実際のところは「語根からざっくり2種類のグループに分けて活用するよ」というだけだと思ってよいと思います。というかなんなら「形態論的に2個に分けた」でもいい。

で、今度はInformalとFormalそれぞれ Pattern 1(上)、Pattern 2(左下)、Pattern 3(右下)という分類が挟まり、さらにそれぞれ上からStem 1、2、3といった形態に対応します。各マスごとにSlot IV (Pattern, Stem)の音が変わります。

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各場所の形態と意味が対応するような感じ。例えば、一番左上のマスは形態論的にPattern 1 Stem 1 Informal Designationであり、具体的に実現される音は"aqal"、対応する意味はマスに書いてあるように「高位の存在」と、そういう対応になっています。

これで「人間」という単語を作ろうと思ったら、Informal Designation(左半分)の Pattern 1 Stem 2 "eqal" を参照すればよろしい、ということです。

イスクイル IVの場合

(わかる人向け:以下はPRC-STA/EXS-UPX/CSL/M/DEL/NRM-THM、UNFRAMED Relation+Vc、shortcutのことは考えない)

さて近年JQはイスクイル IVを制作していまして、もうじきイスクイル IVが主流になるはずです。イスクイル IVでも「人間」を作りましょう。

まずイスクイル IVの語根集(http://www.ithkuil.net/list_of_roots_v_0_5_1.pdf)を開きます。執筆時の最新バージョンである語根リストv.0.5.1で説明します。
やっぱり現代社会は英語帝国主義に支配されているので仕方なく"human"を検索(ctrl/command+F)します。

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ものすごく淡白に書かれていますね。なんもわからん。
まあこの1、2、3というのはStemのことで、Stem 1 (alala)なら「成人」、Stem 2 (elala)なら「子供」、Stem 3 (ulala)なら「思春期の人間」を表します。

…実はイスクイルでは似たような意味の単語は似たような意味変化の派生形を作ります。今回は人間は動物ということで、動物共通の活用をします。実際少し下を探すと「動物を表す語根はこんな感じで活用させますよ〜」というのが見つかります*8この-L-がある生物系の語根(7.3節の語根)たちは-ŠW-と同じような意味をとることになっています*9

f:id:frecafloros:20220403222401p:plain

Slot VI の Specification はこいつに従って活用させればよいわけですね。語根-L-(人類)であれば上の表の"a living being"などを"adult human being"とか"human child"に読み替えて考えてみるということになります。形態論的には以下のような活用になります。

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ちなみにイスクイル IVではStem 0という階梯が存在します。これはStem 1〜3を包括したような意味を表し、どの意味にも限定しないというものです。今回大人か子供かはどうでもよく一般の人類を表したい!ということであればStem 0 (olala)を使うのが望ましいでしょう。

まあBasic Specificationでいいんじゃないでしょうかとなれば、Stem 1: alala / Stem 2: elala / Stem 3: ulala / Stem 0: olala のどれかを使うというわけです。イスクイル IIIに比べて組み合わせが少なくなったのでちょっと楽になったかな?という感じ。

*1:必ずしも3つとは限らないが、まあ大体3つ

*2:G語幹の不定

*3:イスクイルに「名詞」「動詞」という概念は無いが、便宜上こういう説明をしています

*4:単語全体にかかるのでイントネーションが近い

*5:ストレスアクセント

*6:v.0.19現在の形態音韻論での話

*7:実はSlot Iもあるけど大体声門破裂音であり、しばしば表記上は省略される。

*8:イスクイル IIIとは違って人間は何ら特別な存在ではないです。単なる動物だという自覚を持ち、自らを高等生物だなどと宣う傲慢さを捨てましょう。

*9:2022/04/03: より適切なものに修正しました。

PCでイスクイル文字を使う

ttfはこちらから
github.com

Windows


ttfファイルを2つとりあえず落とす
Oltarkhica-Regular-A.otf, Oltarkhica-Regular-B.otf, and Oltarkhica-Regular-C.otf

資料
www.reddit.com
なんか知らんがまた別のフォントが落とせる

自由エネルギーと化学ポテンシャル【熱力学 3】

はい自由エネルギーの話。

ヘルムホルツの自由エネルギー

一般に系の内部エネルギーをすべて取り出すことはできないことになっています。T=0 にはできない。

等温で取り出すことができるエネルギーをヘルムホルツの自由エネルギーといい、

F=U-TS

で定義されます。これの全微分
\begin{align}dF&=dU-d(TS) \\ &=TdS - PdV - (SdT + TdS) \\ &=-SdT-PdV\end{align}

と計算されるので、
dF=-SdT-PdV

ギブスの自由エネルギー

等温等圧で取り出せるエネルギーをギブスの自由エネルギーといい、

G=F+PV=U-TS+PV

で定義されます。これの全微分
\begin{align}dG&=dF + d(PV) \\ &=-SdT-PdV+(VdP+PdV) \\ &=-SdT+VdP\end{align}

から
dG=-SdT+VdP

化学ポテンシャル

気体の分子の数が増減すると内部エネルギーが増減するらしいんですよね。
逆に言うと、これまでは系の粒子数は変化しないことが前提になっていました。

n種類の粒子がそれぞれN_1,N_2,\cdots,N_nこあるとすると、粒子数の変化に伴う内部エネルギーの変化は

dU=-PdV+TdS+\sum_{j=1}^n\mu_j dN_j

となります。ということで、エントロピーヘルムホルツの自由エネルギー、ギブスの自由エネルギーもそれぞれ
dS=\frac{1}{T}dU+\frac{P}{T}dV-\frac{1}{T}\sum_{j=1}^n\mu_j dN_j

dF=-SdT-PdV+\sum_{j=1}^n\mu_j dN_j

dG=-SdT+VdP+\sum_{j=1}^n\mu_j dN_j

エントロピー(熱力学第二法則)【熱力学 2】

さて、熱力学第一法則により、密閉容器に閉じ込めた気体の内部エネルギー U は、気体に加える熱 Q と、外力が気体にする仕事 W の分だけ増加するということでした。式で書くと

 dU=d' Q +d' W

でした。

しかし、熱とか仕事というのは全微分で表せない(=始点から終点までの積分経路によって値が異なる=始点の状態と終点の状態だけからは値が定まらない)ので d ではなく d' で表記しました。

という話をしたのが前回↓
limnanthaceae.hatenablog.com

熱力学第一法則では、d'W = -PdV であったので、残りの d'Q をどうにかする。

カルノーの定理

温度 T_1 の高温熱源から Q_1 の熱を受け取り、温度 T_2 の低温熱源に Q_2 の熱を流す熱機関を考えます。
不可逆機関の効率は可逆機関の効率より小さく、最大効率は作業物質によらず2つの温度のみで決定されます。
可逆機関の効率は

\eta = 1-\frac{Q_2}{Q_1}=1-\frac{T_2}{T_1}

であり、不可逆機関の効率はこれより小さくなります。

エントロピー

カルノーの定理を変形すると

\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2}

が成り立ちます。

Qの符号について、吸熱を正、放熱を負と再定義すると、

\frac{Q_1}{T_1} + \frac{Q_2}{T_2}=0

準静的=可逆過程だと(不可逆とは?)多数のカルノーサイクルに分割できるので

\sum_i\frac{Q_i}{T_i}=0

つまり、極限的には周回積分

\oint\frac{d'Q}{T}=0

が成り立ちます。

ということは、

\int\frac{d'Q}{T}

という積分は、どのような経路で積分しても成り立つということです。
例えば、状態A→状態B→状態C→状態D→状態Aという順番で一周する経路を考えます。

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全体の周回積分が0なので、状態A→状態B→状態Cと状態C→状態D→状態Aの経路積分に分けて考えると

\oint\frac{d'Q}{T}=\int_{A\rightarrow B \rightarrow C}\frac{d'Q}{T} + \int_{C\rightarrow D\rightarrow A}\frac{d'Q}{T}=0

となり、
\int_{A\rightarrow B \rightarrow C}\frac{d'Q}{T} = - \int_{C\rightarrow D\rightarrow A}\frac{d'Q}{T}

つまり、
\int_{A\rightarrow B \rightarrow C}\frac{d'Q}{T} = \int_{A\rightarrow D\rightarrow C}\frac{d'Q}{T}

なので、経路によらず状態A→状態Cの積分値は一致します。

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ので、エントロピー S

S=\int\frac{d'Q}{T}

で定義すると、d'Qが状態量でないにもかかわらず、エントロピーは系の状態量になります。

ちなみに、エントロピーはこの微分

dS = \frac{d'Q}{T}

で定義されることが多いです。

気体の内部エネルギーの微小変化

さて、エントロピー微分値は

dS = \frac{d'Q}{T}

なので、d'Q について整理すると
d'Q = TdS

が得られます。

これと d'W=-PdV dU=d'Q +d'W に代入すると、気体の内部エネルギーの微小変化

 dU=TdS - PdV

が得られます。
これで全ての項が全微分で表すことができたので、この式を積分することで内部エネルギー U を求めることができます(が、実際には T,PS,V の関数であり、実測する必要がある)。