この記事は
- G語幹III型弱動詞
についての記事です。
弱動詞解説回ショートカット
- 9. G語幹I-n型弱動詞 (2021-10-10)
- 13. G語幹III型弱動詞 (2023-07-31)
- 15. G語幹I-ʾ型弱動詞
- 17. G語幹II型弱動詞
- 18. G語根I-w型弱動詞
1. G語幹III型弱動詞の概論
第11回で、アッカド語では ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ といった子音が消失したり、w, y が場合によっては消失するというお話をしました。第13回では、これら ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y がG語幹3番目の子音であるような動詞(G語幹III型弱動詞)の活用についてみていきます。
G語幹III型弱動詞は、語根子音の3番目が弱化するタイプの動詞です。語根の3番目の子音が ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y で語末に来たときに、例えば、
- ibni「彼女が建てた」(< *ibniy < *b–n–y)
- tamla「貴男が満たした」(< *tamlaʾ < *m–l–ʾ)
- nilqe「我々が取った」(< *nilqeḥ < *nilqaḥ < *l–q–ḥ)
また、 ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y が別の子音の前に置かれるとき(例えばG動形容詞の女性単数)は、脱落して直前の母音が伸びます。
- šemītum「聞かれた (fs, nom.)」 (< *šamiʿtum < *š-m-ʿ「聞く」)
- zakūtum「明らか (fs, nom.)」(< *zakuwtum < *z-k-w「明らかである」)
また、 ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y に母音が続くとき(例えば不定形語尾 -um)、子音変化、母音変化を伴います。
- ibnû「彼が建てた」(< *ibniū < *ibniyū)
- tamlâ「貴方たちが満たした」 (< *tamlaā < *tamlaʾā)
- ilqeā「彼女らが取った」(< *ilqeḥā < *ilqaḥā)
- banûm「建てること (nom.)」(< *banāum < *banāyum)
- zakîm「明らか(ms, gen.)」 (< *zakuim < *zakuwim)
成り立ちとしては上記の通りというだけなので、元の子音が何かということは覚えなくて大丈夫です(というより実はG過去形から多少推測できるのですが、これは後ほど触れます)。
2. G語幹III型弱動詞の不定形
G不定詞の活用について、banûm「建てる」と leqêm「取る」を例に見ていきます。
1a2ā3- (一般形) |
banā- (建てる) |
leqē- (取る) |
|
---|---|---|---|
主格 | 1a2ûm | banûm | leqûm |
属格 | 1a2êm | banêm | leqêm |
対格 | 1a2âm / 1a2ēam | banâm | leqēam |
G不定詞は 1a2ā3um で作れますが、III型弱動詞では常に第3子音が脱落するので実質的に語幹は 1a2ā- という形をとります。
- *banāyum > *banāum > banûm
- *banāyim > *banāim > banêm
- *banāyam > *banāam > banâm
しかしながら、第3子音が ḥ, ʿ だったものについては a > e に変化する(第11回参照)ので、語幹が 1e2ē- になるものもあります。
- *laqāḥum > *laqēḥum > *laqēum > *leqēum > leqûm
- *laqāḥim > *laqēḥim > *laqēim > *leqēim > leqêm
- *laqāḥam > *laqēḥam > *laqēam > leqēam
3. G語幹III型弱動詞の過去形
G過去形語幹は 12V3- という形で、この幹母音 V は動詞ごとに異なり覚えないといけないというものでした(第6回参照)。III型弱動詞でも基本的には幹母音を覚えないといけないのですが、実は消失した第3子音とある程度対応関係があります。
語根の第3子音が y のとき III-y、幹母音が i のとき III-i 、などと表記すると、
- 語根が III-y → 幹母音が i (III-i):*ibniy > ibni「建てた」
- 語根が III-w→ 幹母音が u (III-u):*iḫduw > iḫdu「返答した」
- 語根が III-ʾ / III-h → 幹母音が a (III-a):*imlaʾ > imla「満たした」
- 語根が III-ḥ / III-ʿ → 幹母音が e (III-e):*ilqaḥ > *ilqeḥ > ilqe「建てた」
活用表にすると以下の通りです。
1a2ā3um > 1a2ûm (一般形 > 3=∅) |
banûm (III-i) (建てる) |
ḫadûm (III-u) (返答する) |
malûm (III-a) (満たす) |
leqûm (III-e) (取る) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 3cs | i12V3 > i12V | ibni | iḫdu | imla | ilqe |
2ms | ta12V3 > ta12V | tabni | taḫdu | tamla | telqe / talqe | |
2fs | ta12V3ī > ta12î | tabnî | taḫdî | tamlî | telqî / talqî | |
1cs | a12V3 > a12V | abni | aḫdu | amla | elqe / alqe | |
複数 | 3mp | i12V3ū > i12û | ibnû | iḫdû | imlû | ilqû |
3fp | i12V3ā > i12Vā | ibniā | iḫdâ | imlâ | ilqeā | |
2cp | ta12V3ā > ta12Vā | tabniā | taḫdâ | tamlâ | telqeā / talqeā | |
1cp | ni12V3 > ni12V | nibni | niḫdu | nimla | nilqe |
4. G語幹III型弱動詞の動形容詞
概要で述べた通り、III型弱動詞ではG動形容詞語幹 1a2V3- (第7回参照)の第3子音が落ちまして、殆どの場合で幹母音 V は i です。
- bani- (< *baniy-) 「建てられた」
- mali- (< *maliʾ-) 「満たされた」
- ḫadi- (< *ḫadiw-) 「幸せな」
ごく稀に u になることがあります。
- zaku- (< *zakuw-)「明らかな」
III-e 動詞では、ほとんどの場合で語幹の a が e に変化します。
- leqi- (< laqi- < *laqiḥ-)
1a2V3- > 1a2V- (一般形 > 3=∅) |
rabi- (良い) |
šemi- (聞かれた) |
zaku- (取る) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | ||
単数 | 主格 | 1a23um > 1a2ûm |
1a2V3tum > 1a2V̄tum |
rabûm | rabītum | šemûm | šemītum | zakûm | zakūtum |
属格 | 1a23im > 1a2îm |
1a2V3tim > 1a2V̄tim |
rabîm | rabītim | šemîm | šemītim | zakîm | zakūtim | |
対格 | 1a23am > 1a2Vām |
1a2V3tam > 1a2V̄tam |
rabiam | rabītam | šemiam | šemītam | zakâm | zakūtam | |
複数 | 主格 | 1a23ūtum > 1a2ûtum |
1a23ātum > 1a2Vātum |
rabûtum | rabiātum | šemûtum | šemiātum | zakûtum | zakâtum |
斜格 | 1a23ūtim > 1a2ûtim |
1a23ātim > 1a2Vātim |
rabûtim | rabiātim | šemûtim | šemiātim | zakûtim | zakâtim |
5. まとめ
- 第3語根が ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y のとき脱落する。
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参考文献
- J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
- D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.