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楔形文字で学ばないアッカド語文法(13)G語幹III型弱動詞

この記事は

  • G語幹III型弱動詞

についての記事です。

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1. G語幹III型弱動詞の概論

第11回で、アッカド語では ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ といった子音が消失したり、w, y が場合によっては消失するというお話をしました。第13回では、これら ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y がG語幹3番目の子音であるような動詞(G語幹III型弱動詞)の活用についてみていきます。

G語幹III型弱動詞は、語根子音の3番目が弱化するタイプの動詞です。語根の3番目の子音が ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y で語末に来たときに、例えば、

  • ibni「彼女が建てた」(< *ibniy < *b–n–y)
  • tamla「貴男が満たした」(< *tamlaʾ < *m–l–ʾ)
  • nilqe「我々が取った」(< *nilqe < *nilqaḥ < *l–q–ḥ)

といったように子音脱落します。

また、 ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y が別の子音の前に置かれるとき(例えばG動形容詞の女性単数)は、脱落して直前の母音が伸びます。

  • šemītum「聞かれた (fs, nom.)」 (< *šamiʿtum < *š-m-ʿ「聞く」)
  • zakūtum「明らか (fs, nom.)」(< *zakuwtum < *z-k-w「明らかである」)

第7回の復習ですが、G動形容詞の語幹が 1a2V3- 、女性形が 1a2V3tum となるのですが、上の例ではちょうど3の部分の子音(šamiʿ- の ʿ、zakuw- の w)が脱落して直前の母音Vが長くなっています(1a2V3tum → 1a2tum)。ちなみに、「聞く」は動作他動詞なのでG動形容詞は受動、「明らかである」は状態動詞なので記述の意味の形容詞になります。

また、 ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y に母音が続くとき(例えば不定形語尾 -um)、子音変化、母音変化を伴います。

  • ibnû「彼が建てた」(< *ibniū < *ibniyū)
  • tamlâ「貴方たちが満たした」 (< *tamlaā < *tamlaʾā)
  • ilqeā「彼女らが取った」(< *ilqeḥā < *ilqaḥā)
  • banûm「建てること (nom.)」(< *banāum < *banāyum)
  • zakîm「明らか(ms, gen.)」 (< *zakuim < *zakuwim)

成り立ちとしては上記の通りというだけなので、元の子音が何かということは覚えなくて大丈夫です(というより実はG過去形から多少推測できるのですが、これは後ほど触れます)。

2. G語幹III型弱動詞の不定

G不定詞の活用について、banûm「建てる」と leqêm「取る」を例に見ていきます。

1a2ā3-
(一般形)
banā-
(建てる)
leqē-
(取る)
主格 1a2ûm banûm leqûm
属格 1a2êm banêm leqêm
対格 1a2âm / 1a2ēam banâm leqēam
主格は -ûm、属格は -êm、対格は -âm / -ēam (語幹が ā で終わるときは -âm、語幹が ē で終わるときは -ēam)です。

G不定詞は 1a2ā3um で作れますが、III型弱動詞では常に第3子音が脱落するので実質的に語幹は 1a2ā- という形をとります。

  • *banāyum > *banāum > banûm
  • *banāyim > *banāim > banêm
  • *banāyam > *banāam > banâm

しかしながら、第3子音が ḥ, ʿ だったものについては a > e に変化する(第11回参照)ので、語幹が 1e2ē- になるものもあります。

  • *laqāḥum > *laqēḥum > *laqēum > *leqēum > leqûm
  • *laqāḥim > *laqēḥim > *laqēim > *leqēim > leqêm
  • *laqāḥam > *laqēḥam > *laqēam > leqēam

3. G語幹III型弱動詞の過去形

G過去形語幹は 12V3- という形で、この幹母音 V は動詞ごとに異なり覚えないといけないというものでした(第6回参照)。III型弱動詞でも基本的には幹母音を覚えないといけないのですが、実は消失した第3子音とある程度対応関係があります。

語根の第3子音が y のとき III-y、幹母音が i のとき III-i 、などと表記すると、

  • 語根が III-y → 幹母音が i (III-i):*ibniy > ibni「建てた」
  • 語根が III-w→ 幹母音が u (III-u):*iḫduw > iḫdu「返答した」
  • 語根が III-ʾ / III-h → 幹母音が a (III-a):*imlaʾ > imla「満たした」
  • 語根が III-ḥ / III-ʿ → 幹母音が e (III-e):*ilqaḥ > *ilqeḥ > ilqe「建てた」

活用表にすると以下の通りです。

1a2ā3um > 1a2ûm
(一般形 > 3=∅)
banûm (III-i)
(建てる)
ḫadûm (III-u)
(返答する)
malûm (III-a)
(満たす)
leqûm (III-e)
(取る)
単数 3cs i12V3 > i12V ibni iḫdu imla ilqe
2ms ta12V3 > ta12V tabni taḫdu tamla telqe / talqe
2fs ta12V3ī > ta12î tabnî taḫdî tamlî telqî / talqî
1cs a12V3 > a12V abni aḫdu amla elqe / alqe
複数 3mp i12V3ū > i12û ibnû iḫdû imlû ilqû
3fp i12V3ā > i12Vā ibniā iḫdâ imlâ ilqeā
2cp ta12V3ā > ta12Vā tabniā taḫdâ tamlâ telqeā / talqeā
1cp ni12V3 > ni12V nibni niḫdu nimla nilqe

4. G語幹III型弱動詞の動形容詞

概要で述べた通り、III型弱動詞ではG動形容詞語幹 1a2V3- (第7回参照)の第3子音が落ちまして、殆どの場合で幹母音 V は i です。

  • bani- (< *baniy-) 「建てられた」
  • mali- (< *maliʾ-) 「満たされた」
  • ḫadi- (< *ḫadiw-) 「幸せな」

ごく稀に u になることがあります。

  • zaku- (< *zakuw-)「明らかな」

III-e 動詞では、ほとんどの場合で語幹の a が e に変化します。

  • leqi- (< laqi- < *laqiḥ-)


1a2V3- > 1a2V-
(一般形 > 3=∅)
rabi-
(良い)
šemi-
(聞かれた)
zaku-
(取る)
男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
単数 主格 1a23um
> 1a2ûm
1a2V3tum
> 1a2V̄tum
rabûm rabītum šemûm šemītum zakûm zakūtum
属格 1a23im
> 1a2îm
1a2V3tim
> 1a2V̄tim
rabîm rabītim šemîm šemītim zakîm zakūtim
対格 1a23am
> 1a2Vām
1a2V3tam
> 1a2V̄tam
rabiam rabītam šemiam šemītam zakâm zakūtam
複数 主格 1a23ūtum
> 1a2ûtum
1a23ātum
> 1a2Vātum
rabûtum rabiātum šemûtum šemiātum zakûtum zakâtum
斜格 1a23ūtim
> 1a2ûtim
1a23ātim
> 1a2Vātim
rabûtim rabiātim šemûtim šemiātim zakûtim zakâtim

5. まとめ

  • 第3語根が ʾ, h, ḥ, ʿ, ġ, w, y のとき脱落する。


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参考文献
  • J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
  • D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.