この記事はイスクイル 4 (2021)を扱っています。対応するバージョンは
- morpho-phonology: v0.19 http://www.ithkuil.net/morpho-phonology_v_0_19.pdf
- affix: v0.7.5 http://www.ithkuil.net/affixes%20v_0_7_5.pdf
- lexical roots: v0.5.1 http://www.ithkuil.net/list_of_roots_v_0_5_1.pdf
です。
イスクイル 3に比べてかなり扱いやすくなりました。
イスクイルでは日時を表す時に「ある期間における何番目」という表現をします。
例えば「午前8時」なら「1日のうちの8番目の時刻」ですし、「水曜日」なら「週の3番目の日」、「5月20日」なら「5月の20番目の日」です。
イスクイルにおいてはこの「ある期間」を接辞で、「何番目」を語根(というか語幹と接辞)で表現します。
SPT (-rw / -ry)
まず期間の方から。期間を表す接辞は -rw / -ry*1です。イスクイルにおける接辞は通称VxCs接辞(実質的に接中辞)と呼ばれるもので、イスクイルでは接辞を使って語彙を爆発的に増やしています。
単語をやらずに接中辞からやるのも変な話ですが、こちらの方が説明が少ないので接辞からいきます。
期間を表す接辞 -rw / -ry は「n番目」とすると以下のように9段階*2に変化します。
階梯 | -rw / -ry*3 | SPT 暦上定点 |
---|---|---|
1 | -arw- / -ary- | 1分に対する(n秒) |
2 | -ärw- / -äry- | 1時間に対する(n分) |
3 | -erw- / -ery- | 1日に対する(n時) |
4 | -irw- / -iry- | 1週間に対する(第n曜日) |
5 | -ëirw- / -ëiry- | 1ヶ月に対する(第n日) |
6 | -örw- / -öry- | 1ヶ月に対する(第n週) |
7 | -orw- / -ory- | 1年に対する(第n月) |
8 | -ürw- / -üry- | (n年) |
9 | -urw- / -ury- | (n世紀) |
ちなみに接辞はタイプ1からタイプ3まであって上表はタイプ1なのですが、「SPTタイプ1の第3階梯」のことを「SPT_1/3」と表記したりします。
例えば「21世紀」は上の表の階梯9を使って"wullärsurya"と表されます。"wullärs"が21番目(後述)で、"ury"が〜世紀にあたります。最後の"a"は格です。格はだいたい接辞の後に置かれます。"a"は辞書形くらいのイメージでとりあえずは大丈夫だと思います。
もう一つ例を。「土曜日に」は上の表の階梯4を使って"wucpirwa'o"と表されます。"wucp"が6番目、つまり月曜日から数えて6番目の曜日は土曜日ということになります。"irw"が「週のうちの〜」なので全体で「週のうちの6番目の日」=「土曜日」。
数体系
続いて「n番目」の部分について。イスクイルの数体系は(多分)10進化100進法を採用しています。
次の表は日時を表すのに使われる0〜10までの数詞*4*5です。
n | 語根 | n番目 | (短縮系) |
---|---|---|---|
0 | VR | uvral- | wuvr- |
1 | LL | ullal- | wull- |
2 | KS | uksal- | wuks- |
3 | Z | uzal- | wuz- |
4 | PŠ | upšal- | wupš- |
5 | ST | ustal- | wust- |
6 | CP | ucpal- | wucp- |
7 | NS | unsal- | wuns- |
8 | ČK | učkal- | wučk- |
9 | LẒ | ulẓal- | wulẓ- |
10 | J | ujal- | wuj- |
「n番目」の列が基本形です。その時の意味合いによって母音を変化させる場合があります。ある特定の場合は一番右の列のような短縮系を使うことができます。音節数が減るので、使えるときは短縮系を使うことが多いと思います。例えば「第3週」なら"wuzörwa"と表されます。(日曜日が0番目なのか7番目なのかは謎)
11以上99以下の2桁の数字を作るには以下の接辞 -rs を使います。
階梯 | -rs | TNX 10の倍数 |
---|---|---|
1 | -ars- | n+10 |
2 | -ärs- | n+20 |
3 | -ers- | n+30 |
4 | -irs- | n+40 |
5 | -ëirs- | n+50 |
6 | -örs- | n+60 |
7 | -ors- | n+70 |
8 | -ürs- | n+80 |
9 | -urs- | n+90 |
ドイツ語のように「一の位-十の位」の語順になるので、11はwullars-、12はwuksars-、13はwuzars-、と続きます。なお(イスクイル 3とは違い?)20, 30, 40, ... はそれぞれ 0+20, 0+30, 0+40, ... と解釈されるので、20はwuvrärs-、30はwuvrers-、40はwuvrirs-、となります。
期間の話の時の例で言えば「21世紀」は"wullärsurya"でしたが、21を表す wullärs- は wull(1)-ärs(+20)- のように分解されます。
日時の表現の例
その前に便利な格について。イスクイル 4には格が68個ありますが、日時の表現に頻出の格をピックアップします。
1 | a | themaic | 主題格(デフォルトの格) |
41 | ë'i*6 | comitative | 随伴格「〜に沿って」 |
61 | a'o | concursive | 時間格「〜の時点で」 |
68 | o'a | prolimitive | 到達格「〜までに」 |
以下は日時の表現例です。
34秒までに:wupšersaryo'a
wupš(4)- ers(+30)- ary(秒分)- o'a(までに)
日付に関しては少し便利な表現の仕方があります。
5月22日:wuksärsëirwiasta *7
wuks(2) - ärs(+20) - ëirw(日月) - iast(5) - a
wuksärsëirw- までは今まで通り「22日」と解釈されます。で、5月であることを表す時に「5月」という単語を追加するのではなく、5を表す接辞 -iast- を付加することで、全体で「5月22日」を表現することができます。
1〜12までの接辞を次の表にまとめます。
n | グロス | 語形*8 |
---|---|---|
1 | XX1 | -iazc- |
2 | XX2 | -iaks- |
3 | XX3 | -iaz- |
4 | XX4 | -iapš- |
5 | XX5 | -iast- |
6 | XX6 | -iacp- |
7 | XX7 | -ians- |
8 | XX8 | -iačk- |
9 | XX9 | -ialẓ- |
10 | X10 | -iaj- |
11 | X11 | -iacg- |
12 | X12 | -iajd- |
1969年3月15日:wustarsëirwiaza walẓarsa'o walẓörsürwë'i
wust(5) - ars(+10) - ëirw(日月) - iaz(3) - a(デフォルト) walẓ(9) - ars(+10) - a'o(の) walẓ(9) - örs(+60) - ürw(年) - ë'i(に沿って)
全体で「1969年の3月15日」という解釈です。
wustarsëirwiaza で3月15日、walẓarsa'o walẓörsürwë'i で1969年です。1969年のうち walẓars- が上二桁の「19」、walẓörs- が下二桁の「69」に対応します。
walẓars- の方が -a'o で wustarsëirwiaza 「3月15日」を修飾し、walẓörs- は -ë'i で walẓarsa'o を修飾しています。
また、SPT_1/3を使った時刻表現については特殊な用法があります
午前8時52分:wučkerwa waksëirsoň *9
wučk(8) - erw(時-分日) - a(デフォルト) waks(2) - ëirs(+50) - oň(と*10)
-erw- は「〜時」を表す接辞なので wučkerwa で「8時」を意味します。
ただ、この -erw- を使う場合、後続要素に「〜分」を接続することが可能です。waksëirs- に -oň をつけた waksëirsoň*11を後置すると「52分」を表すことができます。
午後8時52分33秒:wuvrärserwa waksëirsoň wazersarwë'i
wuvr(0) - ärs(+20) - erw(時-分日) - a(デフォルト) waks(2) - ëirs(50) - oň(と) waz(3) - ers(+30) - arw(秒分) - ë'i(に沿って)
午後8時は20時なので wuvrärs-(20) を使って表現します。こちらも先の例文同様に waksëirsoň が後続し、頭の2単語で「20時52分」=「午後8時52分」を表しています。
秒は別単語として wazersarw-ë'i が続きます。解釈に迷いますが wazersarwë'i は wuvrärserwa を修飾しているとみて良いと思います。
(書いてて思ったんですけど、イスクイル 4って格の表示が完全に後置詞ですね。)
*1:wとyは前後の音環境で交替することがある。
*2:本当は10段階3タイプあるので全30段階だがひとまず使わないのでここでは触れません
*3:表はSPT_1/1からSPT_1/9まで。
*4:数詞という品詞はイスクイルには存在しないのですが、便宜上数詞という言葉を使います。
*5:以降基本形としてS3/PRC-STA/BSC/EXS-CSL/UPX/DEL/M/NRMを想定。
*6:原型は ëi' だが、イスクイルの音韻論では語末にglottal stopが来ないという規則があるのでしばしば ë'i の形になる
*7:文法書6.0章には ksialärsëirwiasta って書いてありましたけど別に普通に5月22日って言いたければ wuks-で いいんですよね…?と思ったので wuks- で紹介しています。
*8:全てdegree 4 type 3
*9:waks- と ksal- < (a)ksal は同じ意味だと思っているので、いちいち説明するのもめんどくさいため waks- 表記しています。
*10:COO_1/7
*11:品詞がわからない。文法書で何か見落としてるかもしれない。