リムナンテスは愉快な気分

徒然なるままに、言語、数学、音楽、プログラミング、時々人生についての記事を書きます

イスクイル(2020 v0.16)勉強ノート 1 【Slot 5, 6, 7】

追記 (2021-01-11)
v19.0が出たら書き直す



現行のイスクイル(2011年版 Ithkuil)の後継言語である「イスクイル 2020 (a.k.a TNIL)」を勉強します。
イスクイルの作者ことJQが新文法を製作しているので、勉強の過程を残しておこう、という試みです。
前回書いたv0.12を修正するのが面倒なので新しくv0.16版の記事を書きました。

※「新イスクイル」は執筆現在作成途中ですので、常に最新の情報を参照してください。
この記事では、

  • morpho-phonology v0.16
  • lexicon roots v0.4.1
  • affixes v0.7.1

を参照します。

一応ノート4まで出す予定。

とりあえずこれらをやれば最低限のithkuil文が書けるはず。

音素

かなりシンプルになった。楽。とりあえずスルーで。
英語より簡単になったのでは?(個人の感想)
基本的に常識的な読み方をすれば大丈夫。特筆すべきは、

  • r [ɾ]
  • rr [r]
  • [ʁ]

くらいでは?気になった時に帰ってきます。

Scoping order

scoping orderってなに。

枠構造(slot structure)を構成するために考える順番?多分。上から、

  1. Root, Stem, Specification
  2. Function
  3. Version
  4. Slot VIII Affixes
    • ←(incorporated stems)
      1. Root, Stem, Specification
      2. Function
      3. Version
      4. Slot VIII Affixes
      5. Format
  5. Configuration, Affiliation
  6. Extension
  7. Perspective
  8. Essence
  9. Slot X Affixes
  10. Aspect, Effect, Level, Phase, Valence
  11. Context
    • (名詞)
      1. Case
    • (動詞)
      1. Mood
      2. Validation
      3. Illocution
      4. Expectation
  12. Bias

Slot structure

単純形(Simple Formative)、複文形(Complex Formative, これは誤訳かもしれない)の2種類ある。
v0.16で枠(Slot)の数が14個に変更された。

当面は単純形だけ考える。単純形はSlot I〜IVを使わない。
'V_v+C_R+V_R(+C_s V_X...')+C_A(+V_X C_s...)(+V_N C_N)(+V_C / V_K)(+(')C_B or (')C_Y)+[stress]

V 'V_v Version+Stem+Context of main root
VI C_R Main Root
VII V_R Function+Specification of main root
VIII C_s V_x...' VxCs affixes in reversed forms
IX C_A Configuration+Extension+Affiliation+Perspective+Essence
X V_x C_s... VxCs affixes
XI V_N C_N (Valence or Aspect or Phase or Level or Effect)+Mood/Case-Scope
XII V_C/V_K Case, or Illocution+Expectation+Validation
XIII (')C_B or (')C_Y Bias or Case-Scope or Mood
XIV [stress] penult.: XI=V_C, ultimate: XI=V_K, antepenultimate: XI=V_C+FNC, ultimate: XI=V_K+FNC

多分最低限理解すべきは下のやつだけ。これだけで単語は作れる。
当面は下だけに集中する。

V 'V_v Version+Stem+Context of main root
VI C_R Main Root
VII V_R Function+Specification of main root
IX C_A Configuration+Extension+Affiliation+Perspective+Essence
XII V_C/V_K Case, or Illocution+Expectation+Validation
XIV [stress] penult.: XI=V_C, ultimate: XI=V_K, antepenultimate: XI=V_C+FNC, ultimate: XI=V_K+FNC

単語が名詞的ならSlot XIIはV_C (Case)、動詞的ならV_K (Illocution+Expectation+Validation)として解釈される。どちらなのかはstress(Slot IX)の位置で決定。後ろから二番目の音節にstressなら名詞的、最終音節にstressなら動詞的。多分。
Slot XIIなくても単語になるっぽいけどよくわからない。動詞のときは無くてもいいということかしら。いやそんなことはない気がするけど…は条件付きで省略可能だがほとんどの場合は必要。

Slot VI: 語根(Root)

Slot VIの位置。子音1〜6個で表す。

例)
M 言語的コミュニケーション、会話、話
Ň 書、書くこと、文書
TX 飲食、栄養摂取
ČPL ケーキ
ŘPSTL ウラン

ただし、語根にkg, nč, zrb, tpk, fmstは含まない(禁則音列)。Glottal stopは含まない。ļ, ç, çç, çw, ř, h, w, yは単独で語根にならない。
素数が減った代償で子音クラスタが激しいことに…

ちなみにthは帯気音[tʰ]、他にはph, kh, ch, čhがあり、それぞれ[pʰ, kʰ, t͡sʰ, t͡ʃʰ]。

Slot V: 語基(Stem)+脚色(Version)+文脈(Context)

各語根ごとに32種(4x2x4)の派生形が考えられる。Contextが必須要素になった。
さらに、否定接辞(NEG/4 affix, relative negation*1)を使わずにSlot Vで否定を表すことも可能になったので実質64種。
Designationは天に召された。ithkuil 2011のFORMAL Designationはaffixで表すか別の語根を使うようになったっぽい。

語基(Stem)

STEM 1, STEM 2, STEM 3, STEM 0の4種類。

PROSESSUAL Version, EXISTENTIAL Contextの場合

STEM 1 STEM 2 STEM 3 STEM 0
(a) e u o

STEM 0は今までになかった新しい概念で、Rootの一般概念的な意味を表すのに使える。
が、だいたいの語根はSTEM 1がその役割を担う場合が多いのでほぼ不要。覚える必要なし(本当に?)。
STEM 1のaは、stressがpenultimateの時に省略可能(だと思う)。

脚色(Version)

ithkuil 2011では6種類あったが、PROCESSUAL, COMPLETIVEの2種類に減った。

EXISTENTIAL Contextの場合

STEM 1 STEM 2 STEM 3 STEM 0
PRC (a) e u o
CPT ä i ü ö
PROCESSUAL

(旧文法通りなら)自己完結的であり、特に目的、効果、結果を得ることを指向しない。

aju-
PRC/EXS-'transfer of possession'-BSC/DYN-
物を授受すること

atxu-
PRC/EXS-'eat'-BSC/DYN-
食べること

COMPLETIVE

(旧文法通りなら)何か目的を達成する、あるいは目的を達成する意図があるということを示唆する。「〜しきる」みたいな。

äju-
CPT/EXS-'transfer of possession'-BSC/DYN-
物の授受をし終えること

ätxu-
CPT/EXS-'eat'-BSC/DYN-
食べきること

文脈(Context)

EXISTENTIAL, FUNCTIONAL, REPRESENTATIONAL, AMALGAMATIVEの4種。旧文法と同じ(だと思う)。

EXS FNC RPS AMG
STEM 1, PRC (a) ai ia ao
STEM 1, CPT ä au ae
STEM 2, PRC e ei ie ea
STEM 2, CPT i eu eo
STEM 3, PRC u ui ua oa
STEM 3, CPT ü iu ue öa
STEM 0, PRC o oi uo oe
STEM 0, CPT ö ou öe
EXISTENTIAL

外部の主観的な考えや態度に一切関係なく、単に客観的な描写をしたい時に使う。

EXISTENTIAL Contextの場合

STEM 1 STEM 2 STEM 3 STEM 0
PRC (a) e u o
CPT ä i ü ö
FUNCTIONAL

考え、態度、信念、意見、慣習、文化的地位、使用、機能、利益によって規定されていることを示唆し、単なる客観的実在ではなく、何か主観的、文脈的な意味合いが紐づいている。

FUNCTIONAL Contextの場合

STEM 1 STEM 2 STEM 3 STEM 0
PRC ai ei ui oi
CPT au eu iu ou
REPRESENTATIONAL

象徴、比喩、換喩*2的な役割に着目する。

REPRESENTATIONAL Contextの場合

STEM 1 STEM 2 STEM 3 STEM 0
PRC ia ie ua uo
CPT ue
AMALGAMATIVE

過去現在未来、あらゆる文脈、相互関係の上で相乗的に導き出される体系的、全体的、ゲシュタルト的、構成的な性質を表す*3

EXISTENTIAL Contextの場合

STEM 1 STEM 2 STEM 3 STEM 0
PRC ao ea oa oe
CPT ae eo öa öe

おまけ:否定形(NEG/4 affix, relative negation)

Slot Vを使ってショートカットが可能になった。

EXS FNC RPS AMG
STEM 1, PRC awa awi iwa awo
STEM 1, CPT äwä awu iwä awe
STEM 2, PRC ewe ewi iwe ewa
STEM 2, CPT iwi ewu iwë ewo
STEM 3, PRC uwu uwi uya owa
STEM 3, CPT üwü iwu uye öwa
STEM 0, PRC owo owi uyo owe
STEM 0, CPT öwö owu uyö öwe

Slot VII: 機能(Function)+詳述(Specification)

slot VIIでは機能(Function)と詳述(Specification)を指定する。
2つのFunction(STATIVE, DYNAMIC)と4つのSpecification(BASIC, CONTENCIAL, CONSTITUTIVE, OBJECTIVE)がある。
機能と詳述の詳しい説明をする前に、形式的な形態論から整理する。

Slot VIIの形態論

STA DYN
BSC a u
CTE ä ü
CSV e o
OBJ i ö

ちょっと原典と書き方を変えてしまっているので分かりづらいですが、ithkuil 2020には標準母音階梯みたいなものが設定されているので、Slot VとSlot VIIの活用は実は同じ。EXSを縦に見た時と、STA, DYNを一列に見た時に活用が同じになっているはず。
第一階梯はa, ä, e, ë, i, u, ü, o, ö。ëがないのだけれども、iの代わりに使用することができる。本当に簡単になったithkuil 2020。逆にいいんですかこんなに簡単で。

機能(Function)

旧文法のFunctionから。4種類から2種類に減った。

静態(STATIVE)

状態、静的なもの。動的でない、つまり一時的であったり永続的であったりするもの。
旧文法では"="ではないと言っているが、新文法でも同じ。
旧文法では"="の役割をするFunctionが存在したが、新文法では"="の為のコピュラ語根が新たに存在している(-Č-)。と、思う。

動態(DYNAMIC)

有形か物理的な行為、因果の伴う出来事。動的なもの。

STATIVEかDYNAMICかというのは本質的に存在するわけではなく話者の主観で決定されるものである。
話者がその「状態」を伝えたいのか、あるいは「行為」を伝えたいのか、という情報である。

aja-
PRC/EXS-'transfer of possession'-BSC/STA-
物の所有権を移している状態

aju-
PRC/EXS-'transfer of possession'-BSC/DYN-
物の所有権を移す行為

詳述(Specification)

旧文法(ithkuil-2011)には無かった仕様。
ちょっとよくわからない。基本的にSTEM 1/INFについてはlexiconに意味が書いてあるので、それを参照するしかないか今の所は。
一連の状態や動作に対して、どこに注目するか?ということだと思う。

BASIC

語根の包括的な実体化?
活性化された、時間的に不定、動的、心理的に動詞的な観念を表す語根(DYNAMIC Functionのこと?)に対しては、名詞的単語は「〜の実体」、「〜の発生」、動詞的単語は「〜が発生する」を意味する。
一方で、具現化された、時間的に安定、静的、心理的に名詞的な概念を表す語根(STATIVE Function?)に対しては、名詞的単語は「存在する〜」、動詞的単語では「〜が存在する」を意味する。

CONTENCIAL

物理的、非物理的問わず、内容、本質、目的の伴う機能、理想化抽象化精神的な形態。
単なる物理的な形とは違う。

CONSTITUTIVE

機能や目的とは対照的に、それを構成するもの。誰によってその行為が形作られているか。

OBJECTIVE

行為、状態、出来事に関係する対象、物体、製品、経験者。実体を伴うもの。

aja-
PRC/EXS-'transfer of possession'-BSC/STA-
物の所有権を移している状態

ajä-
PRC/EXS-'transfer of possession'-CTE/STA-
ある特定の物が授受されている状態(授受される物に注目しており、誰がやってるかは気にしない)

aje-
PRC/EXS-'transfer of possession'-CSV/STA-
物が誰かと誰かの間で授受されている状態(何が受け渡されているかは気にしない)

aji-
PRC/EXS-'transfer of possession'-OBJ/STA-
授受されている状態の物

*1:relative negationとあるが、absolute negationもあり、意味の違いがわからない。インド哲学的な「相対否定」と「絶対否定」でよいのだろうか?

*2:霞ヶ関」=官庁、「永田町」=国会のように関連単語の意味を拡張した形の比喩。「漱石」を読む、「ペン」は「剣」よりも強し、などなど

*3:よくわからん