4ヶ月ぶりに加群やろうとしたらわからなくなりました。忘れました。
ノート見ても何もわかりません。というわけで、頭空っぽでもわかるような記事にしていきたい。
(群とか環とかくらいだとその辺にわかりやすい記事がたくさんあるのですが、流石に加群までくると解説してくれるサイトがあんまり無くて悲しいです。いやまあ真面目にやれという話ではあるんだけれども。)
ただあんまり誤魔化しすぎないようにはしたい。
加群論を始める前に
集合論→群論→環論・体論→加群論→ガロア理論→可換環論→古典的代数幾何→スキーム論→楕円曲線→数論幾何?
前提知識
群、環、体、あと線形代数とベクトル空間をちょっと知ってると面白いかもしれない。
記事一覧
参考資料
シリーズ全体で次の教科書・動画を参考にしています。
- 「テキスト理系の数学10 代数学」津村博文 著
- 「代数学」AKITOの勉強チャンネル
- https://www.rs.tus.ac.jp/a25594/2019_Module_Theory_20190620ver.pdf
- http://www2.math.cst.nihon-u.ac.jp/sasaki/wp/wp-content/uploads/2014/12/fa75a316529d0ac746d8f50958ba66ed.pdf
- https://mathematics-pdf.com/pdf/module.pdf
- http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~wakui/AlgebraTheory_for_web.pdf
- ベクトル空間とか環上の自由加群とかの基底の元の個数の話 - ぱいおつ日記
- https://research.kek.jp/people/hkodama/Math/algebra.pdf
復習:ベクトル空間(線型空間)
ベクトル空間を一般化させたものが加群なのですが、ベクトル空間の定義は以下のようなものでした。
def 1.0 を空でない集合、 を実数集合 または複素数集合 として、次の演算が定義されているとする:
(1) に対して
(2) に対して
また、 に対して以下の(1)〜(8)が成立しているとする:
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
このとき、 は 上のベクトル空間という。
ちなみに を定義に入れる場合もありますが、(1),(2),(3),(4),(6)から導けますので基本はいらないです。
(6)に を代入して
つまり
ここで の逆元として というものを考え、両辺に足すと
(1)より
(4)より なので
(3)より なので
(2)より
…こんなん覚えられるか!
って思わないんですかね数学強い人たちは(筆者は線形代数初習の時非常に苦しんだ記憶があります)。
まず前提条件がモリモリありますし、条件8個も覚えられなかったですね。
しかしすでに我々は群・環・体を習得しているわけで、群論・環論・体論の言葉で def 1.0 を解釈できるのです。
(1)〜(4)は が結合律、可換律、加法単位元(零元)の存在、加法逆元の存在を満たす加法群であると言っているに過ぎないし、 とか は結局のところ体ですので。つまりこうです。
def 1.0.1体 、加法群 とする。また、 とする。
の作用が定義され、
(1)
(2) 、
(3)
を満たす時、 は 上のベクトル空間という。
まあこんだけですよ。ついでなので2つの分配法則も1つにまとめました。
この体 を可換環 に変えた(拡張した)のが加群です。
加群の定義
まずは加群の定義から。
このとき、の元をスカラーといい、写像をスカラー積といいます。
それから、スカラー積を導く写像のことをスカラー乗法といいます。多分。
わかりやすさのために加法群の元は太字で表記したけど次回以降普通の書体にするかも。
嬉しい点は、線形空間(ベクトル空間)とは違って、体上だけでなく環上で定義できることだと思います。つまり、整数ベクトルみたいなものは(乗法逆元が閉じてないので)線形代数の範疇では扱えなかったけれども加群の範疇なら扱える。
加群の定義は、可換環と加法群に対して、(1) 環の乗法とスカラー乗法が両立し、(2) スカラー乗法の分配律が成り立ち、(3) スカラー乗法の単位元が存在すること。言い換えると、def 1.1 のようなスカラー乗法が定義できると環上の加群が作れる。
(1) 環の乗法とスカラー乗法が両立、つまり、「環で乗算してからスカラー倍」と「スカラー倍のスカラー倍」が一致。
(2) スカラー乗法の分配律が成り立つ。
(3) スカラー乗法の単位元が存在。この単位元自体は環の単位元。
加群の例
- -加群
一般の加法群を考えます。
可換環と見做して、自然な倍(整数倍)をスカラー積とする。つまり、
に対し、
と定義するとは-加群。
- 整数ベクトル
まあ実際に加群を作って見ましょう。
意味がありそうな(ベクトル空間ではない)素朴な例は整数ベクトルとスカラー倍ではないでしょうか。
が加法群なので、群の直積は演算をと定義することで加法群。
次に、スカラー倍がで閉じるような環を探します。
環として有理数や実数を持ってくるとスカラー乗法がで閉じないので、可換環にはを採用。
というわけで、、とします。
、に対してスカラー積を(整数同士の積は整数)と定義でき、
(1) ()
(2) 、 ()
(3) ()
が成り立つので、加群の定義を満たします。
なので、は-加群です。
- 体
可換環(体)、加法群とすると、-加群はベクトル空間(ベクトル空間の定義から)*1。
ベクトル空間上のベクトルは伸び縮みできますが、加群(not ベクトル空間)の場合はベクトルを伸ばせるけど縮められない、あるいは縮める必要がないというイメージ(?)
可換環が体でない場合は乗法逆元が存在しないので。
加群の性質
以下、の零元は、の零元はと書きます。
prop 1.2に対して、
(1) 、
(2)
、。
0に何を掛けても0だし、マイナスの掛け算は全体のマイナスであるという、それはそうなっててほしい性質ですが、加群の定義から証明できます。
(1)ですが、可換環も加法群も加法に関して群なので、が使えます。
(2)は、を導くことで、を示します。
def 1.1の(2)より分配律が成り立つので、が成り立ちます。
proof 1.2(1)
より、
なので両辺からを引いて
同様に
なので両辺からを引いて
(2)
より
より