そろそろアッカド語やらねば本当に忘れそう(何なら忘れた)
さて、この記事は
- G過去形
- アッカド語の語順
についての記事です。
1. 復習:G語幹について
セム語では子音からなる「語根」間に母音を挟みこむことでできる「語幹」が特徴的でした。アッカド語でも例に漏れず、母音の挟み込み方によって様々な機能を持った語幹が生まれるのでした。
メインはG語幹、D語幹、S語幹、N語幹の4系統。アッカド語のG語幹(不定形)は、1,2,3を語幹子音として1a2ā3(-um)のように表されるのでした。
第6回ではG語幹系列の過去形について。
2. G過去形
1,2,3をそれぞれ語幹子音とすると、G過去形の基本形は 12V3 です。このVのことを幹母音(theme vowelとかstem vowel)といいます。
ただ、幹母音がa, i, uのどれになるかは語根によって決まるので、いちいち覚えないといけない。めんどくさい!
- šakānum 「置く(こと)」 → iškun 「置いた」(幹母音はu)
- šarāqum 「盗む(こと)」 → išriq 「盗んだ」(幹母音はi)
- ṣabātum 「掴む(こと)」 → iṣbat 「掴んだ」(幹母音はa)
最初のi-は三人称単数接頭辞です。G過去形では人称、性、数によって接頭辞、接尾辞がくっついたりくっつかなかったりします。他の人称、性、数においても、G過去形語幹に以下のような接頭辞、接尾辞がつきます。
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
3人称 | (3cs) i- | (3mp) i- -ū | (3fp) i- -ā | |
2人称 | (2ms) ta- | (2fs) ta- -ī | (2cp) ta- -ā | |
1人称 | (1cs) a- | (1cp) ni- |
3人称単数、2人称複数、1人称単数と複数に関しては、男性名詞と女性名詞で同形になります。ですので、覚える活用の種類は全部で8種類です。
以下活用例です。
置く (šakānum) |
盗む (šarāqum) |
掴む (ṣabātum) |
|||
---|---|---|---|---|---|
3cs | iškun | išriq | iṣbat | ||
2ms | taškun | tašriq | taṣbat | ||
2fs | taškunī | tašriqī | taṣbatī | ||
1cs | aškun | ašriq | aṣbat | ||
3mp | iškunū | išriqū | iṣbatū | ||
3fp | iškunā | išriqā | iṣbatā | ||
2cp | taškunā | tašriqā | taṣbatā | ||
1cp | niškun | nišriq | niṣbat |
3. 語順
アッカド語の語順は日本語と同じく"SOV"です。もう少し詳細に言うと、散文の動詞節における語順は"SOAV"です。
付属語とは、副詞、前置詞句、間接目的語などのことを指します。
日本語と同様に、他動詞文であっても全ての要素を入れなければならないということはなく主語や目的語を省くことができます。
「男奴隷は盗んだ」
wardum | 男奴隷 |
išriq | 盗んだ < šarāqum |
強調したい語を文頭に持ってくることができたりするので語順は自由です。ただし動詞は必ず文末にきます。特に書き言葉の場合、アッカド語には読点がないため動詞が実質的な文末マーカーとして機能します。したがって次の文章は2文です。
「女奴隷は銀を掴み、家に置いた」
antum | 女奴隷 |
kaspum | 銀 |
iṣbat | 掴んだ < ṣabātum |
ina | 〜の中へ |
bītum | 家 |
iškun | 置いた < šakānum |
ここでは iṣbat(掴んだ)と iškun(置いた)の2つが動詞ですので、"antum kaspam iṣbat"までで一文、"ina bītim iškun"でもうい一文、と解釈されます。
…という説明が英語話者向けになされていますが、この文章の場合は上記訳文のように接続っぽく訳すのが良さそう。
4. 動詞の人称、性、数の例外
基本的に主語の人称、性、数に合わせて普通に変化させればよいのですが、いくつか例外があります。
双数主語は単独で男性名詞であっても女性複数扱い(ごく稀に男性複数扱い)。
「2人の王が座した」
šarratān iškunā
「2人の女王が座した」
šarrum | 王 |
šarratum | 女王 |
主語が複合主語なら複数扱い。さらに、一項目でも男性名詞なら男性複数扱い。
「息子と娘が落ちた」
antum wardum u mārātum imqutū
「女奴隷と男奴隷と娘たちが落ちた」
aššatum u mārātum imqutā
「妻と娘が落ちた」
mārum | 息子 |
mārtum | 娘 |
imqut | 落ちた < maqātum |
aššatum | 妻 |
ちなみにA, B, Cを並列で述べる時は”A B u C”となるようです。
集合名詞は単複両方取りうる。
「軍隊は街を掴んだ(掌握した)」
ṣābum | 軍隊 |
ālum | 街 |
5. まとめ
- G過去形で挿入される母音は動詞ごとに決まっている
- 語順はSOVで日本語とだいたい一緒
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参考文献
- J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
- D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.