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楔形文字で学ばないアッカド語文法(12)名詞由来形容詞・指示語

この記事は

  • 名詞由来形容詞
  • 指示語(指示形容詞/照応代名詞)

についての記事です。

1. 名詞由来形容詞

名詞語幹に-īをつけることで「~に関連する」という意味の形容詞を作ることができます。現代日本語でいうところの、連体修飾格の「~の」のようなものでしょうか。

  • maḫrûm (< *maḫrīum):前方の(maḫrum:前方)
  • elûm (< *elīum):上方の(elum:上方)
  • šaplûm (< *šaplīum):下方の(šaplum:下方)

赤字で示したように、男性単数主格などでは語尾が-īumの並びになるので母音縮約が起こり-ûmと変化することに注意してください。また、例えば女性などになると間に-t-が入ったりして縮約が起きず-ītumとなったりするのでこれも注意。音韻変化については第11回を参照。
limnanthaceae.hatenablog.com

ちなみに、場所の名詞に-īをつけると「~人の」といったような意味の形容詞になります。

2 指示形容詞/照応代名詞

指示形容詞 annûm

指示形容詞「この」は、アッカド語では annûm (<*hanniyum) です。女性単数は annītum (<*hanniytum)。

他の形容詞を annûm で修飾することもできます。

šamnum ṭābum annûm
 この良質な油

šamnum 油脂
ṭābum 良い、素晴らしい

女性単数形annītumは指示代名詞「これ」としても使うことができます。

照応代名詞 šū

annûm「この」と対になる ullûm という語がありますが、古バビロニア語のテキストにはあんまり出てこないらしい。
その代わりに、「あの」を表現するには3人称代名詞 šū を使います。厳密には前方照応で「さっき話に出したあれ/これ」というニュアンスなので、訳としては「あの」も「この」もどちらもあり得ます。

alpam šuātu ana eṭlim iddin
 彼はあの(例の)牛を若者に与えた

なお、3人称代名詞には与格形が存在します。方言の違いによって幾つか異なる語形があり、uāšim, šâšim は男女ともに単数で使います。また、šâšum は男性単数、šiāšim は女性単数で使うことができます。男性複数は šunūšim。女性複数の方は立証されてはいませんが、šināšim と予想されています。

3 まとめ

  • 名詞→形容詞の派生は -ī-
  • annûm「この」、šū「あの」


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参考文献
  • J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
  • D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.