この記事は
- 名詞由来形容詞
- 指示語(指示形容詞/照応代名詞)
についての記事です。
1. 名詞由来形容詞
名詞語幹に-īをつけることで「~に関連する」という意味の形容詞を作ることができます。現代日本語でいうところの、連体修飾格の「~の」のようなものでしょうか。
- maḫrûm (< *maḫrīum):前方の(maḫrum:前方)
- elûm (< *elīum):上方の(elum:上方)
- šaplûm (< *šaplīum):下方の(šaplum:下方)
赤字で示したように、男性単数主格などでは語尾が-īumの並びになるので母音縮約が起こり-ûmと変化することに注意してください。また、例えば女性などになると間に-t-が入ったりして縮約が起きず-ītumとなったりするのでこれも注意。音韻変化については第11回を参照。
limnanthaceae.hatenablog.com
ちなみに、場所の名詞に-īをつけると「~人の」といったような意味の形容詞になります。
2 指示形容詞/照応代名詞
指示形容詞 annûm
指示形容詞「この」は、アッカド語では annûm (<*hanniyum) です。女性単数は annītum (<*hanniytum)。
他の形容詞を annûm で修飾することもできます。
この良質な油
šamnum | 油脂 |
ṭābum | 良い、素晴らしい |
女性単数形annītumは指示代名詞「これ」としても使うことができます。
照応代名詞 šū
annûm「この」と対になる ullûm という語がありますが、古バビロニア語のテキストにはあんまり出てこないらしい。
その代わりに、「あの」を表現するには3人称代名詞 šū を使います。厳密には前方照応で「さっき話に出したあれ/これ」というニュアンスなので、訳としては「あの」も「この」もどちらもあり得ます。
彼はあの(例の)牛を若者に与えた
なお、3人称代名詞には与格形が存在します。方言の違いによって幾つか異なる語形があり、šuāšim, šâšim は男女ともに単数で使います。また、šâšum は男性単数、šiāšim は女性単数で使うことができます。男性複数は šunūšim。女性複数の方は立証されてはいませんが、šināšim と予想されています。
3 まとめ
- 名詞→形容詞の派生は -ī-
- annûm「この」、šū「あの」
←前:楔形文字で学ばないアッカド語文法(11)子音脱落・母音変化
→次:楔形文字で学ばないアッカド語文法(13)G語幹III型弱動詞
参考文献
- J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
- D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.