リムナンテスは愉快な気分

徒然なるままに、言語、数学、音楽、プログラミング、時々人生についての記事を書きます

楔形文字で学ばないアッカド語文法(2)名詞の格変化

この記事は

についての記事です。

1. 格変化

今回はアッカド語の名詞の格変化を学習します。

格とは、文中の意味の関係を表す役割のことをいいます。
日本語の場合は「〜が」、「〜の」、「〜に」、「〜を」のように格助詞を使って、名詞どうしの関係性を表します。
一方で、アッカド語の場合は単語の語尾を変化させることで格を表します。ドイツ語、ラテン語、ロシア語、サンスクリットなども同様に語尾を変化させて格を表すので、これらを勉強したことのある人は馴染み深いかもしれません。*1


これがアッカド語の格変化表です。



男性名詞 女性名詞
単数 主格 ilum iltum nārum
属格 ilim iltim nārim
対格 ilam iltam nāram
双数 主格 ilān iltān nārān
斜格 ilīn iltīn nārīn
複数 主格 ilū ilātum nārātum
斜格 ilī ilātim nārātim


アッカド語の名詞は、男性名詞と女性名詞に分けることができます。
単数の場合は主格、属格、対格の3種類、双数と複数では主格、斜格の2種類の形があります。

大多数の日本語話者は「双数」とか「斜格」とか何…?って感じだと思いますし、とても複雑そう。と思いきや、意外と単純です。個別に見ていきましょう。

2. 男性名詞の格変化

まずは男性名詞の格変化から。男性名詞 ilum(神)を例に見ていきます。


男性名詞
単数 主格 ilum
属格 ilim
対格 ilam
双数 主格 ilān
斜格 ilīn
複数 主格 ilū
斜格 ilī

まずは単数から。
単数主格はilum、単数属格*2はilim、単数対格はilam、のように、um、im、amと活用していきます。

双数では、属格と対格の区別がなくなり斜格として扱われます。双数とは、目や耳など本来的に2つで1組のものを表すときに使われます。双数主格はilān、双数斜格はilīnです。

複数でも属格と対格の区別は無く、まとめて斜格になります。複数主格はilū、複数斜格はilīです。

3. 女性名詞の格変化

続いて女性名詞の格変化。


女性名詞
単数 主格 iltum nārum
属格 iltim nārim
対格 iltam nāram
双数 主格 iltān nārān
斜格 iltīn nārīn
複数 主格 ilātum nārātum
斜格 ilātim nārātim

女性名詞の格変化は2系統あります。
まずは男性名詞の語幹にtがついたもの。女性名詞iltum(女神)という語はilum(神)の語幹ilにtがついて出来上がっています。

単数と双数の活用は、男性名詞と同じくiltum、iltim、iltam、iltān、iltīnとなります。

複数主格は、男性名詞の語幹にātumがついてilātum。複数斜格はātimがついてilātim。


女性名詞の中には、例えばnārum(川)のように、女性接辞tがつかないものもあります。この場合も単数、双数に関しては男性名詞と同様の格変化をします。
そして複数主格、複数斜格については、語幹nārにそのままātum、ātimがつきます。

4. まとめ

ここまで、アッカド語の名詞の格変化を見てきました。

アッカド語の名詞格変化は、単数、双数については男性名詞も女性名詞も同様の格変化をします。なので、男性か女性かを気にするのは複数の格変化の時だけです。

そのため、一見複雑そうな名詞の格変化は、次の表のようにまとめられます。(斜格=属格+対格)


単数 双数 男性複数 女性複数
主格 -um -ān -ātum
属格 -im -īn -ātim
対格 -am


←前:楔形文字で学ばないアッカド語文法(1)発音 - リムナンテスは愉快な気分
→次:楔形文字で学ばないアッカド語文法(3)前置詞 - リムナンテスは愉快な気分


参考文献
  • Huehnergard, J. A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011). Harvard Semitic Museum Studies 45. ISBN 978-1-57506-922-7

*1:アッカド語の格変化は前述の言語よりも簡単(個人差あり)

*2:属格というより、スラブ語の前置格に近い。