リムナンテスは愉快な気分

徒然なるままに、言語、数学、音楽、プログラミング、時々人生についての記事を書きます

楔形文字で学ばないアッカド語文法(3)前置詞

この記事は

  • アッカド語の前置詞
  • 前置詞+名詞で作る副詞句
  • 限定代名詞

についての記事です。

1. アッカド語の前置詞

今回学ぶアッカド語の前置詞は、ša(〜の)、ina(〜の中に)、ištu(〜から外へ)、itti(〜と共に)、の4つです。

短母音で終わる2音節単語が多いのが、アッカド語の前置詞の特徴です。
またアッカド語では、前置詞の後ろには属格の名詞がきます(属格とか格変化を忘れた人は前回の記事を見て復習してください)。

■ ša(〜の)

A ša B
で「BのA」という意味になります。日本語の語順とは逆になっています。英語などと同じ語順です。前置詞の後の名詞(上の文のB)は属格形にします。

šarrum ša Bābilim
バビロンの王

inān ša wardim
奴隷の目

A ša B BのA(Bはgen. )
šarrum
Bābilim*1 バビロン
inum
wardum 男奴隷


Babilim、wardimが単数属格語尾(-im)になっていることに注意してください。
それから、人間の目は通常2つくっついているので、奴隷の「目」は単数ではなく双数(inum (sg. nom.)ではなく、inān (du. nom.))です。
双数、複数の場合、前置詞の後ろに来る名詞は斜格(斜格は属格と対格の両方の役割を担います)です。

emūqum ša ilī
神々の力

emūqum
ilum

■ ina(〜の中に)

〜の中に、〜の中で、といった意味になります。

ina bitim
家の中で

ina libbim ša ālim
街の中心で

ina 〜の中に、〜の中で
bitum
libbum 中心
ālum

他にも「〜を使って」とか「〜という手段で」と言いたい時にも使われます。

■ ištu(〜から外へ)

〜の外で、〜から外へ、といった意味になります。

ištu bitim
家の外で

ištu 〜の外で、〜から外へ

■ itti(〜と共に)

〜と共に、〜を使って、といった意味になります。

itti mārtim
娘と共に

itti īnīn u uznīn
目と耳を使って

itti 〜と共に、〜を使って
mārtum
A u B AとB(接続詞)
īnum 目(しばしば双数が使われる)
uznum 耳(しばしば双数が使われる)

2. šaの特別な用法:限定代名詞

ša A
で「Aの一人」、「Aの一つ」という意味になることがあります。

ša Bābilim
バビロンの一人、バビロニア

ša ālim
街の一つ

3. まとめ

  • ほとんどの前置詞は短母音で終わる2音節語
  • 前置詞の後ろの名詞は属格(双数、複数なら斜格)


←前:楔形文字で学ばないアッカド語文法(2)名詞の格変化 - リムナンテスは愉快な気分
→次;楔形文字で学ばないアッカド語文法(4)人称代名詞・簡単な文 - リムナンテスは愉快な気分


参考文献
  • Huehnergard, J. A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011). Harvard Semitic Museum Studies 45. ISBN 978-1-57506-922-7

*1:何で主格なのに語尾が-imなのかと思うかもしれませんが、実は Bābilim という単語は bāb ili(神の門)から来ているので、神「の」という属格が残っている(という説がある)