リムナンテスは愉快な気分

徒然なるままに、言語、数学、音楽、プログラミング、時々人生についての記事を書きます

"ghoti"の発音は全部で何通りあるか?

"ghoti"
この単語の発音は?


そうですね、「フィッシュ」ですね。fish /fɪʃ/ と同じですね。

  • laughのgh /f/
  • womenのo /ɪ/
  • nationのti /ʃ/

をそれぞれ組み合わせると "ghoti" は /fɪʃ/ と発音することができます。

これは有名なジョーク単語で、ジョージ・バーナード・ショーが言ったとか言ってないとか言われているやつです。
英語の発音と綴りがあまりにも不規則でかけ離れていることを皮肉った造語です。


"name" を「ナーメ」と読まずに「ネイム」のように読んだり
"one"を「オネ」ではなく「ワン」と読んだり(その /w/ はどこから来た?)

それこそ同じ "o" なのに "one" の "o" は「ワ」で "women" の "o" は「イ」だったりして「オ」が可哀想です。

どうして英語の発音は綴りと全然違うのか。それは英語の歴史に原因があって…



という話はまあまあ色んなところで見かける有名な話ですが、

ということらしいので、全ての可能な発音を数えてみましょうか。
英語のひねくれ具合はfishどころではない。


以下、米国英語準拠のつもり。/∅/は本記事では発音しないこと(黙字、mute)を表す記号として使います。

各文字の可能な発音の種類

"ghoti"に含まれる5文字g, h, o, t, iのそれぞれのほか、英語では2字で1音を表す場合があるので、gh, tiも含めて列挙します。

g

/∅/: gnaw, paradigm, sign
/g/: begin, get, give, together
/dʒ/: margarine, veg

h

/∅/: honor, hour, vehicle
/h/: hot

gh

/∅/: eight, high, though
/f/: cough, enough, laugh, tough
/g/: ghost, yoghurt
/p/: hiccough

o

/∅/: people
/ə/: button
/ɒ/: hot
/ʌ/: won
/ɔ/: gone
/ɪ/: women
/oʊ/: broken
/wʌ/: one

t

/∅/: ballet, listen
/t/: hot, sit, tiny

i

/∅/: business
/ɪ/: English, sit
/æ/: meringue
/aɪ/: tiny

ti

/ʃ/: nation
/tʃ/: question
/ʒ/: equation

全読み方

上で各文字(?)の発音を列挙しました。
実際には語頭で/gh/の発音ができなかったり、環境によってその発音が存在するかしないかという問題があるので、不可能な発音の組み合わせを排除していきます。一応必ず母音が含まれることを仮定します。

o,t,iが/∅/でないとき

"ghoti"が一音節単語だと仮定すると、"gh"が頭子音、"o"が核母音、"ti"が末子音。
二音節単語だと仮定すると、"gh"が頭子音、"o"が核母音、"t"が二音節目の頭子音、"i"が二音節目の核母音。

ただし、2子音の頭子音は /s,ʃ/ + /C/、/C/ + /l,r,w/ 以外は許されていないので、可能な発音の組み合わせは、

gh: /∅, f, g, h, p, dʒ/
o: /ə, ɒ, ʌ, ɔ, ɪ, oʊ, wʌ(∅wʌ, gwʌ, hwʌのみ)/
ti: /tæ, tɪ, taɪ, ʃ, ʒ, tʃ/


(ghのgだけミュートってのもなんか変な感じはしますが、まあいいでしょう)

oが/∅/のとき

"ghot"が頭子音、"i"が核母音となりますが、頭子音列 /f, g, h, p, dʒ/ + /t/ は許容されていないのでgh /∅/であり

gh: /∅/
o: /∅/
ti: /tæ, tɪ, taɪ/

tが/∅/のとき

"gh"が頭子音、"ot"が核母音、"i"が二音節目の核母音となります。
母音連続の扱いに悩みますが、許容ということにしておきます。

gh: /∅, f, g, h, p, dʒ/
ot: /ə, ɒ, ʌ, ɔ, ɪ, oʊ, wʌ(∅wʌ, gwʌ, hwʌのみ)/
i: /æ, ɪ, aɪ/

iが/∅/のとき

"gh"が頭子音、"o"が核母音、"t"が末子音。

gh: /∅, f, g, h, p, dʒ/
o: /ə, ɒ, ʌ, ɔ, ɪ, oʊ, wʌ(∅wʌ, gwʌ, hwʌのみ)/
ti: /t/

全て/∅/のとき

発音しない

全ての組み合わせ

ətæ, ətɪ, ətaɪ, əʃ, əʒ, ətʃ, ɒtæ, ɒtɪ, ɒtaɪ, ɒʃ, ɒʒ, ɒtʃ, ʌtæ, ʌtɪ, ʌtaɪ, ʌʃ, ʌʒ, ʌtʃ, ɔtæ, ɔtɪ, ɔtaɪ, ɔʃ, ɔʒ, ɔtʃ, ɪtæ, ɪtɪ, ɪtaɪ, ɪʃ, ɪʒ, ɪtʃ, oʊtæ, oʊtɪ, oʊtaɪ, oʊʃ, oʊʒ, oʊtʃ, wʌtæ, wʌtɪ, wʌtaɪ, wʌʃ, wʌʒ, wʌtʃ, fətæ, fətɪ, fətaɪ, fəʃ, fəʒ, fətʃ, fɒtæ, fɒtɪ, fɒtaɪ, fɒʃ, fɒʒ, fɒtʃ, fʌtæ, fʌtɪ, fʌtaɪ, fʌʃ, fʌʒ, fʌtʃ, fɔtæ, fɔtɪ, fɔtaɪ, fɔʃ, fɔʒ, fɔtʃ, fɪtæ, fɪtɪ, fɪtaɪ, fɪʃ, fɪʒ, fɪtʃ, foʊtæ, foʊtɪ, foʊtaɪ, foʊʃ, foʊʒ, foʊtʃ, gətæ, gətɪ, gətaɪ, gəʃ, gəʒ, gətʃ, gɒtæ, gɒtɪ, gɒtaɪ, gɒʃ, gɒʒ, gɒtʃ, gʌtæ, gʌtɪ, gʌtaɪ, gʌʃ, gʌʒ, gʌtʃ, gɔtæ, gɔtɪ, gɔtaɪ, gɔʃ, gɔʒ, gɔtʃ, gɪtæ, gɪtɪ, gɪtaɪ, gɪʃ, gɪʒ, gɪtʃ, goʊtæ, goʊtɪ, goʊtaɪ, goʊʃ, goʊʒ, goʊtʃ, gwʌtæ, gwʌtɪ, gwʌtaɪ, gwʌʃ, gwʌʒ, gwʌtʃ, hətæ, hətɪ, hətaɪ, həʃ, həʒ, hətʃ, hɒtæ, hɒtɪ, hɒtaɪ, hɒʃ, hɒʒ, hɒtʃ, hʌtæ, hʌtɪ, hʌtaɪ, hʌʃ, hʌʒ, hʌtʃ, hɔtæ, hɔtɪ, hɔtaɪ, hɔʃ, hɔʒ, hɔtʃ, hɪtæ, hɪtɪ, hɪtaɪ, hɪʃ, hɪʒ, hɪtʃ, hoʊtæ, hoʊtɪ, hoʊtaɪ, hoʊʃ, hoʊʒ, hoʊtʃ, hwʌtæ, hwʌtɪ, hwʌtaɪ, hwʌʃ, hwʌʒ, hwʌtʃ, pətæ, pətɪ, pətaɪ, pəʃ, pəʒ, pətʃ, pɒtæ, pɒtɪ, pɒtaɪ, pɒʃ, pɒʒ, pɒtʃ, pʌtæ, pʌtɪ, pʌtaɪ, pʌʃ, pʌʒ, pʌtʃ, pɔtæ, pɔtɪ, pɔtaɪ, pɔʃ, pɔʒ, pɔtʃ, pɪtæ, pɪtɪ, pɪtaɪ, pɪʃ, pɪʒ, pɪtʃ, poʊtæ, poʊtɪ, poʊtaɪ, poʊʃ, poʊʒ, poʊtʃ, dʒətæ, dʒətɪ, dʒətaɪ, dʒəʃ, dʒəʒ, dʒətʃ, dʒɒtæ, dʒɒtɪ, dʒɒtaɪ, dʒɒʃ, dʒɒʒ, dʒɒtʃ, dʒʌtæ, dʒʌtɪ, dʒʌtaɪ, dʒʌʃ, dʒʌʒ, dʒʌtʃ, dʒɔtæ, dʒɔtɪ, dʒɔtaɪ, dʒɔʃ, dʒɔʒ, dʒɔtʃ, dʒɪtæ, dʒɪtɪ, dʒɪtaɪ, dʒɪʃ, dʒɪʒ, dʒɪtʃ, dʒoʊtæ, dʒoʊtɪ, dʒoʊtaɪ, dʒoʊʃ, dʒoʊʒ, dʒoʊtʃ,

tæ, tɪ, taɪ,

əæ, əɪ, əaɪ, ɒæ, ɒɪ, ɒaɪ, ʌæ, ʌɪ, ʌaɪ, ɔæ, ɔɪ, ɔaɪ, ɪæ, ɪɪ, ɪaɪ, oʊæ, oʊɪ, oʊaɪ, wʌæ, wʌɪ, wʌaɪ, fəæ, fəɪ, fəaɪ, fɒæ, fɒɪ, fɒaɪ, fʌæ, fʌɪ, fʌaɪ, fɔæ, fɔɪ, fɔaɪ, fɪæ, fɪɪ, fɪaɪ, foʊæ, foʊɪ, foʊaɪ, gəæ, gəɪ, gəaɪ, gɒæ, gɒɪ, gɒaɪ, gʌæ, gʌɪ, gʌaɪ, gɔæ, gɔɪ, gɔaɪ, gɪæ, gɪɪ, gɪaɪ, goʊæ, goʊɪ, goʊaɪ, gwʌæ, gwʌɪ, gwʌaɪ, həæ, həɪ, həaɪ, hɒæ, hɒɪ, hɒaɪ, hʌæ, hʌɪ, hʌaɪ, hɔæ, hɔɪ, hɔaɪ, hɪæ, hɪɪ, hɪaɪ, hoʊæ, hoʊɪ, hoʊaɪ, hwʌæ, hwʌɪ, hwʌaɪ, pəæ, pəɪ, pəaɪ, pɒæ, pɒɪ, pɒaɪ, pʌæ, pʌɪ, pʌaɪ, pɔæ, pɔɪ, pɔaɪ, pɪæ, pɪɪ, pɪaɪ, poʊæ, poʊɪ, poʊaɪ, dʒəæ, dʒəɪ, dʒəaɪ, dʒɒæ, dʒɒɪ, dʒɒaɪ, dʒʌæ, dʒʌɪ, dʒʌaɪ, dʒɔæ, dʒɔɪ, dʒɔaɪ, dʒɪæ, dʒɪɪ, dʒɪaɪ, dʒoʊæ, dʒoʊɪ, dʒoʊaɪ,

ət, ɒt, ʌt, ɔt, ɪt, oʊt, wʌt, fət, fɒt, fʌt, fɔt, fɪt, foʊt, gət, gɒt, gʌt, gɔt, gɪt, goʊt, gwʌt, hət, hɒt, hʌt, hɔt, hɪt, hoʊt, hwʌt, pət, pɒt, pʌt, pɔt, pɪt, poʊt, dʒət, dʒɒt, dʒʌt, dʒɔt, dʒɪt, dʒoʊt,


というわけで、全394通り。

余談

こんな面白い言語、義務教育じゃなければもっと楽しめたはずなんだ…

どうして綴りが覚えられないからといって「勉強不足」のレッテルを貼られないといけないのか…