リムナンテスは愉快な気分

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楔形文字で学ばないアッカド語文法(4)人称代名詞・簡単な文

この記事は

  • アッカド語の人称代名詞
  • 「AはBです」の言い方
  • 所有の表現
  • 存在の表現

についての記事です。

1. 独立人称代名詞

アッカド語第4回は人称代名詞です。ここにきてようやく、という感じですがね。


男性単数 女性単数 男性複数 女性複数
一人称 anāku nīnu
二人称 atta atti attunu attina
三人称 šū šī šunu šina


一人称代名詞は、男女の区別がありません。
男女共に一人称単数はanāku(私)、一人称複数はnīnu(私たち)。

二人称、三人称は単複共に男女の区別があります。
二人称男性単数はatta(貴方)、二人称女性単数はatti(貴女)、二人称男性複数はattunu(貴方達)、二人称女性複数はattina(貴女達)。

それから、三人称代名詞に人とモノの区別は存在しません。主語が男性名詞なら男性形、女性名詞なら女性形を使います。
三人称男性単数はšū(彼、それ)、三人称女性単数はšī(彼女、それ)、三人称男性複数はšunu(彼ら、それら)、三人称女性複数はšina(彼女ら、それら)。


また、「私とあなた」のように人称代名詞を複数並列させるときは、基本的に一人称、二人称、三人称の順に並べます

anāku u atti
私と貴女

attina u šū
女方と彼

2. 「AはBです」

日本語の「」や「です」、中国語の「」、ドイツ語のsein動詞のような、「AはBです」を表現する単語を繋辞(コピュラ)といいます。が、アッカド語にはありません

では、アッカド語で「AはBです」を言いたいときどうすればいいかというと、単純に「A B」と並べるだけでよいのです。

ただしアッカド語では、主語が一般名詞か代名詞かによって主語の置く位置が変わります。主語が

  • 一般名詞→文の始めに置く
  • 代名詞→文の終わりに置く

Ḫammurapi šarrum ša Bābilim
ハンムラビはバビロンの王である

mārtātum ša abim amtātum ša šarratim
父の娘たちは女王の女奴隷である

wardum ša šarratim anāku
私は女王の奴隷である

Ḫammurapi ハンムラビ(バビロニア帝国初代王)
abum
amtum 女奴隷
šarratum 女王

3. 所有構文

前置詞šaを使うと、「[主語]は[持ち主]が所有する」と言うことができます。
つまり、「A ša B」で「AはBが所有する(ものである)」という表現ができます。
ただし、このときも主語が代名詞なら「ša B A」の語順になります。

wardū ša bēlim
奴隷たちは主人のものである

ša iltim šū
それは女神が所有している

bēlum 主人
iltum 女神

4. 存在構文

ina A B」で「AにはBがある」の意味になります。

ina libbim ša bītim šīpātum
家の中心には羊毛がある

ina libbim ša ālim nārum
街の中心には川がある

šīpātum (常に複数形で)羊毛
nārum (女性名詞)川


B ina A」だと単純に「BはAにある(いる)」のニュアンスが強くなるので注意。

nārum ina libbim ša ālim
川は街の中心にある

ただし、主語が代名詞のとき「ina A B」が「AにはBがある」の意味になるか「BはAにある」の意味になるかは文脈次第です。

ina ālim nīnu
街には我々がいる / 我々は街にいる

5. まとめ

  • アッカド語の代名詞は一人称の単複、二人称と三人称の単複と男女を区別する
  • 名詞節を並べると「AはBである」の意味になる
  • ただし主語(=A)が一般名詞のときは「A B」の順、代名詞のときは「B A」の順
  • Bがšaやinaから始まる副詞節のとき、それぞれ「AはBが所有するものである」、「AはBにいる」の意味になる
  • 「ina A B」で「AにはBがある」の意味になる


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参考文献
  • Huehnergard, J. A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011). Harvard Semitic Museum Studies 45. ISBN 978-1-57506-922-7