前回(第7回)では動詞を形容詞化した動形容詞を扱いました。第8回では一般の形容詞について格変化を見ていきます。
また、形容詞の名詞化についても見ていきます。
(動形容詞より先にこっちやったほうが分かりやすかったのでは…と思いましたが今更回を変えるのめんどくさいのでそのままで…第8回から先に読むと第7回が理解しやすいかもしれません)
この記事は
- G形容詞
- 形容詞の名詞化
についての記事です。
1. 限定用法形容詞
形容詞には名詞の様相を表現する叙述用法と、名詞を修飾する限定用法とがありますが、アッカド語ではそれぞれ語形が異なります。どういうことかというと、叙述用法は用言、限定用法は体言の活用をします。第7回の動形容詞は限定用法です。
叙述用法は後の回でやるとして、ここでは限定用法を扱います。
男性複数以外は名詞の格変化と同じです。
限定用法形容詞のポイントは以下4つ。
- 後置修飾
- 2つ以上の名詞を修飾するときは(分配的でも)複数
- 男性名詞+女性名詞は男性複数扱い
- 双数名詞に対しては複数形容詞で修飾
2. 2つ以上の名詞を修飾するときは(分配的でも)複数
「AなB + AなC」という意味で「Aな(B+C)」という表現をするときは、形容詞は複数形です。
強い父と(強い)息子
ummum u mārtum dannātum
強い母と(強い)娘
文構造は [abum u mārum] dannūtum、[ummum u mārtum] dannātum。
逆に、abum u mārum dannumなどと単数形で修飾していたら、dannumはmārumにしか係っていないということになりますので、[abum] u [mārum dannum]「父と強い息子」と解釈できるということ。
3. 男性名詞+女性名詞は男性複数扱い
男性名詞と女性名詞を両方修飾する、あるいは男性・女性が複合している集団を修飾するときは男性複数形容詞を使います。
強い父と(強い)母
4. 双数名詞に対しては複数形容詞で修飾
形容詞に双数形は無いので、複数形で修飾します。双数で使う名詞は大体女性名詞なので女性複数が多いんですかね?
愛想の良い目
2. 形容詞の名詞化
アッカド語の形容詞は、そのままの形で名詞として使うことができます。
大方、「〜である人 / 物」のような意味になります。
dannūtum 強い (adj. mp) > 強者たち
ḫaliqtum 失われた (adj. fs) > 行方不明の女
以下
ms: 男性単数(masculine single)
mp: 男性複数(masculine plural)
fs: 女性単数(feminine single)
fp: 女性複数(feminine plural)
男性複数形容詞が名詞化される時は、大方 -ūtum / -ūtim といった形容詞語尾がそのまま残りますが、たまに男性複数名詞の語尾 -ū / -ī になる場合もあります。
> nakirū 敵 (mp)
女性単数形容詞は、抽象的な意味の名詞として使われることがあります。
(zaprum >) zapurtum 悪い (fs) > 悪、間違い
ただし、女性形の形容詞の名詞化で具体的な物事を表すときもあります。
> dannatum 強い、堅い (fs) > 要塞
名詞ですので、名詞と同じような活用をします。男性形容詞の名詞化は男性名詞、女性形容詞の名詞化は女性名詞として活用します。
名詞の活用については詳しくは下の記事から。
limnanthaceae.hatenablog.com
3. まとめ
- 形容詞は後置修飾
- 形容詞はそのまま名詞として使用可能
←前:楔形文字で学ばないアッカド語文法(7)母音脱落・G動形容詞 - リムナンテスは愉快な気分
→次:楔形文字で学ばないアッカド語文法(9)G語幹I-n型弱動詞 - リムナンテスは愉快な気分
参考文献
- J. Huehnergard, A Grammar of Akkadian (3rd ed. 2011), Harvard Semitic Museum Studies 45, ISBN 978-1-57506-922-7.
- D. Snell, Enkonduko en la Akadan (Tria, reviziita eldono), esperantigita de Michael Wolf, Biblical Institute Press, Rome, 1988, ISBN: 88-7653-566-7.